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特別寄稿 現代世界帝国主義論 その1


 

小川 登(前桃山学院大学・社会学部長)

 

 

 

新自由主義的小段階帝国主義について

 

 

[外への戦争、内への格差・貧困] 路線反対!

 

 

                                                                                                                            

 

 

今、新自由主義的帝国主義の攻撃の的は地方自治体に向けられている。橋下大阪府政がそのすさまじい典型である。中央政府の合理化は、小泉の郵政民営化で山は越したとみてよい。もちろん、[小さな政府]を目指し、社会保険庁の民営化、社会保障のスリム化、労働組合の解体的弱体化に向かって、自民党政権は攻勢をかけ続けている。自衛隊と警察だけは例外である。

 

 

宇野弘蔵は、経済政策論を教えていくうちに、貿易(商品、資本)が捨象されている『資本論』だけでは、多様な国家の経済政策は論じられないことに気付く。そして、@重商主義段階、A自由主義段階、B帝国主義段階の3段階が、資本主義の発展の歴史には、あることを明らかにする。

 

 

だが、1917年のロシア革命以降を、@原理論、A段階論、B現状分析、の内の「現状分析」として切って捨てる過ちを犯す。「1917年以降、20世紀は社会主義の時代に入った」。本来ならば、そうなるはずであったが「ロシア革命は裏切られた革命」と、スターリンによってされてしまう。世界革命はスターリン主義のため起こらなかった。資本主義的帝国主義は生き残る。スターリン主義の「一国社会主義(一国内で社会主義を建設出来ると言う路線)」のおかげで、帝国主義は延命し、戦争で矛盾を引き延ばす。

 

 

レーニンは、「帝国主義は資本主義の最後の段階」と規定したが、@レーニン的古典的帝国主義→Aケインズ主義的帝国主義→B新自由主義的帝国主義、と言う【三つの小段階】を持つにいたり、現小段階(新自由主義的帝国主義)にいたっている。

 

 

(1)重商主義段階

 

読んで字の如しで、内国商業を重んじたのみならず、外国商業貿易が重視された段階。不等価交換で資本を蓄積して行く。典型的産業は毛織物業であった。イギリス。

 

 

(2)自由主義段階

 

19世紀。イギリスが世界の工場として世界に君臨。産業資本主義段階とも言われる。産業革命を擁立し、綿工業が典型。労働力の価値と等価交換し、世界性を持つ。国家は、【安価な国家=小さな政府】であればよく、経済のことは企業にまかせておけ、と言うもの。国家は、《国防と治安》だけやっておればよい、と言うもの。それ以外の分野に口を出すな。流行った言葉は、『自助』である。

 

 

資本にとっての自由だけで、資本間の自由競争だけである。労働組合は共謀罪で非合法である。企業間の自由競争=優勝劣敗の中で生き残った会社が巨大化する。1870年代頃から、貨幣界では、商業銀行は巨大な金融資本(不等価交換)が発生して変わる。

 

 

(3)帝国主義段階の第一小段階=古典的帝国主義

 

1901年〜35年、巨大産業資本と巨大な金融資本の癒着によって、古典的帝国主義が生まれる。

レーニンが「帝国主義とは鉄道である」と言ったように、鉄道は、鉄鋼と石炭の合成物である。「日本帝国主義とは満州鉄道のことである」。鉄道が敷かれた所は侵略され、資源は略奪された。

 

 

さて、巨大産業・金融は、1865年頃からカルテル(価格協定)=共謀罪をはじめていた。共謀=賃金カルテルをイギリス政府が認め、労働組合が合法化されたのは1872年である。パリ・コミューンの翌年である。イギリスの資本家は『労働組合は、革命の防波堤である』と公言する。

 

 

商品輸出に取って代わって、過剰資本の資本輸出が大きな位置を占め出す。帝国主義本国が作った機械設備と設備付き人員は本国の生命線である。それにイギリスがほぼ独占していた植民地の再分割要求である。争闘戦が始まる。

 

 

「帝国主義段階資本主義の、矛盾の本当のハケ口は帝国主義戦争である」。恐慌ではない。

 

 

(4)帝国主義段階の第2小段階=ケインズ主義的帝国主義

 

1,936年~1970年代の特徴は【大きな政府=莫大な赤字】。キーワードは《人為的な有効需要の創出》である。ケインズは世界大戦が起こるのも大恐慌が起こるのも、先進国の国内需要が不足しているからだ、とした。典型的産業は自動車。典型国はアメリカ。

 

 

@ 中央政府が、大規模な公共事業を起こし、過剰な機械設備を吸収し、同時に過剰労働力も吸収する。TVAがその見本。

 

A      それを政府本体がやらなくて良い。公社にやらす。

 

B      年金保険、生活保護の新設に見られるように、社会保障を充実し消費財        需要を増やす。

 

C      労働組合を合法化し、最低賃金法で賃金を上げ、労働者でも自動車を買える様にする。そうすれば労使紛争も減る。

 

D      生産過程での搾取でなく流通過程で収奪して取り返せばすむ。貴族主義のケインズは頭からの労働者嫌いであった。ケインズ主義の行き着く末は、中央政府・地方自治体の莫大な財政赤字、インフレである。だけど高度成長をもたらした。

 

 

 

(5)帝国主義段階の第3小段階=新自由主義的帝国主義

 

 

1980年代~現在。この第3小段階の特徴はもはや明白だろう。ケインズの大きな政府を否定し【小さな政府】を目指している。この政策の眼目は労働組合への敵視である。この主義の出発は、レーガンが航空管制官ストを破壊し、サッチャーが363日間の炭鉱ストを潰し、中曽根が国鉄の民営化に絡めて国労の破壊をしようとしたことにある。典型は軍需産業。

 

 

国が570兆円、地方自治体が230兆円の赤字である。政府、自治体の財政の中で占める人件費の比率は高い、資本攻勢は人員削減か賃下げかである。

 

 

ケインズを否定し、19世紀の旧自由主義の新装した復活である。競争!競争!

弱肉強食。自助は自己責任となった。賃金は十年間上がっていない。

供給力過剰=過剰資本は出口を海外市場に求める。この在外資本は国家の生命線だ。後発国の併合だ。戦争だ。その前に九条改憲だ。

 

 

まず、旧自由主義の復活である。国防(軍隊・・・これも部分的には民営化する。民間人の傭兵化)、警察を除き【安価な国家=小さな政府・自治体】にする。今の焦点は自治体、330万人公務員バッシング。

 

 

ついで、自由競争=過当競争の復活。市場競争原理。マルクスは「労働者間の競争は企業間競争の裏側」とし、「競争の制限=労働組合」とした。ここで日本の労働組合は機能していない。激烈な競争はドロップアウト層を大量に作り出す。

 

次に、ケインズ主義的経済政策の否定。ここでのキーワードも【大きな政府・自治体】を否定し、【小さな政府・自治体】の実現である。赤字財政の解消が自己目的となる。

 

 

@      公共事業の縮小(建設土木業は自民党の最大の寄付基盤なので、徹底してはやれない。そのかわり、他の政府事業(3公社5現業。公社、公団、外郭団体等)は徹底して民営化する。小泉の郵政民営化が典型。残された公務員には賃下げか人員整理の攻勢が待っている。

 

A      社会保障の縮小・撤廃。いま、政府予算のなかで最大の位置を占めるのが社会保障・福祉関連費。これを酷く削る。福祉国家は戦争国家になる。防衛費だけ増えていく。

 

B      労働者保護の撤廃。ケインズでは、労働者の権利を保護し健全な労働組合を育成することは、国内の消費者内需を確保することであった。個人消費はGDP(国内総生産)の6割を占める。

労働市場規制の緩和・撤廃である。大企業2千万人、中小企業2千万人、非正規雇用2千万人の3層構造とされてしまった。

 

 

労働市場は、独占の発生以来、二層構造であった。

 


(A)「高賃金、短時間労働、厚い福利厚生」市場と,(B) 低賃金、長時間労働、薄い福利厚生」市場。そのほか、新自由主義的労働政策は,(B)のもとで、(C)「無権利労働市場」を作り出した。其の最たるものが「日雇い派遣雇用」である。

(これらの労働市場について、雨宮処凛(かりん)『生きさせろ!』太田出版、が見事に描いている。そして、いま若者に読まれている1929年の小林多喜二

『蟹工船』新潮文庫、2008年99刷も読まれたし。)

 

労働規制の自由化・緩和の結果、【不安定就業の雇用形態=プレカリアート】が大量に発生する。構造的に非正規雇用層に《格差と貧困》が集中する。

 

 

C      新自由主義は本来デフレ的であり、低成長的である。《良い労働市場=大企業》でも、長い残業が恒常化している。80年代は残業、90年代はリストラ、00年代は派遣、第3の階層=非正規雇用層は悲鳴を上げている。過剰資金は、証券市場から離れ石油、小麦市場へ雪崩れ込んでいる。インフレの発生である。

 

 

生産過程で搾取され、流通過程で収奪される。

供給力過剰=過剰資本は《外への戦争準備、内への格差・貧困》をあこぎに追求している。この資本攻勢に対抗するためのスローガンは

 

 

 

《9条改憲阻止! 生きさせろ!》である。

 

 

 

<参考>

 

○ 当サイト→ 日本を見る→ 資本と労働シリーズ @、A、B、C 参照。