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(報道記事− 日本共産党機関紙「赤旗」 2011年4月3日付)
16名の原子力専門家の「国民への陳謝」と「政府への緊急提言」201143)


                原子力専門家の緊急提言


はじめに、原子力の平和利用を先頭だって進めて来た者として、今回の事故を極めて遺憾に思うと同時に国民に深く陳謝いたします。
私達は、事故の発生当初から速やかな事故の終息を願いつつ、事故の推移を固唾を呑んで見守ってきた。しかし、事態は次々と悪化し、今日に至るも事故を終息させる見通しが得られていない状況である。既に、各原子炉や使用済燃料プールの燃料の多くは、破損あるいは溶融し、燃料内の膨大な放射性物質は圧力容器や格納容器内に拡散・分布し、その一部は環境に放出され、現在も放出され続けている。
特に懸念されることは、溶融炉心が時間とともに、圧力容器を溶かし、格納容器に移り、さらに格納容器の放射能の閉じ込め機能を破壊することや、圧力容器内で生成された大量の水素ガスの火災・爆発による格納容器の破壊などによる広範で深刻な放射能汚染の可能性を排除できないことである。
こうした深刻な事態を回避するためには、一刻も早く電源と冷却システムを回復させ、原子炉や使用済燃料プールを継続して冷却する機能を回復させることが唯一の方法である。現場は、このために必死の努力を継続しているものと承知しているが、極めて高い放射線量による過酷な環境が障害になって、復旧作業が遅れ、現場作業者の被ばく線量の増加をもたらしている。
こうした中で、度重なる水素爆発、使用済燃料プールの水位低下、相次ぐ火災、作業者の被ばく事故、極めて高い放射能レベルのもつ冷却水の大量の漏洩、放射能分析データの誤りなど、次々と様々な障害が起り、本格的な冷却システムの回復の見通しが立たない状況にある。
一方、環境に広く放出された放射能は、現時点で一般住民の健康に影響が及ぶレベルではないとは云え、既に国民生活や社会活動に大きな不安と影響を与えている。さらに、事故の終息については全く見通しがないとはいえ、住民避難に対する対策は極めて重要な課題であり、復帰も含めた放射線・放射能対策の検討も急ぐ必要がある。
福島原発事故は極めて深刻な状況にある。更なる大量の放射能放出があれば避難地域にとどまらず、さらに広範な地域での生活が困難になることも予測され、一東京電力だけの事故でなく、既に国家的な事件というべき事態に直面している。
当面なすべきことは、原子炉及び使用済核燃料プール内の燃料の冷却状況を安定させ、内部に蓄積されている大量の放射能を閉じ込めることであり、また、サイト内に漏出した放射能塵や高レベルの放射能水が環境に放散することを極力抑えることである。これを達成することは極めて困難な仕事であるが、これを達成できなければ事故の終息は覚束ない。
さらに、原子炉内の核燃料、放射能の後始末は、極めて困難で、かつ極めて長期の取組みとなることから、当面の危機を乗り越えた後は、継続的な放射能の漏洩を防ぐための密閉管理が必要となる。ただし、この場合でも、原子炉内からは放射線分解によって水素ガスが出続けるので、万が一にも水素爆発を起こさない手立てが必要である。
事態をこれ以上悪化させずに、当面の難局を乗り切り、長期的に危機を増大させないためには、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、関係省庁に加えて、日本原子力研究開発機構、放射線医学総合研究所、産業界、大学等を結集し、我が国がもつ専門的英知と経験を組織的、機動的に活用しつつ、総合的かつ戦略的な取組みが必須である。
私達は、国を挙げた福島原発事故に対処する強力な体制を緊急に構築することを強く政府に求めるものである。
                                             平成23330

青木 芳朗   元原子力安全委員
石野 栞     東京大学名誉教授
木村 逸郎   京都大学名誉教授
齋藤 伸三   元原子力委員長代理、元日本原子力学会会長
佐藤 一男  元原子力安全委員長
柴田 徳思   学術会議連携会員、基礎医学委員会 総合工学委員会合同放射線の利用に伴う課題検討分科会委員長
住田 健二   元原子力安全委員会委員長代理、元日本原子力学会会長
関本 博    東京工業大学名誉教授
田中 俊一   前原子力委員会委員長代理、元日本原子力学会会長
長瀧 重信   元放射線影響研究所理事長
永宮 正治   学術会議会員、日本物理学会会長
成合 英樹   元日本原子力学会会長、前原子力安全基盤機構理事長
広瀬 崇子   前原子力委員、学術会議会員
松浦祥次郎   元原子力安全委員長
松原 純子   元原子力安全委員会委員長代理
諸葛 宗男   東京大学公共政策大学院特任教授


(
時事問題研究会解題)
福島事態を引き起こした責任の所在は、一体何処にあるのか?
16人の原子力専門家達の「緊急提言」と「国民への陳謝」は、何を意味するのか?
「原子力の平和利用を先頭だって進めて来たものとして、今回の事故を極めて遺憾に思うと同時に、国民に深く陳謝いたします。」と言う文言から始まる、元原子力安全委員長・松浦祥次郎以下16名の日本の原子力専門家達の、福島原発事故の「深刻な状況」の回避に向けての、「政府に対する緊急提言」が出されたと、赤旗新聞が伝えた。
安全神話を振りまき、国民を愚弄し続けて来た、彼等「原子力の平和利用」の推進者達が、福島原発事故において、より深刻な放射線汚染の拡大と4つの格納容器そのものの爆発の可能性と言う、チェルノブイリを上回る危機的状況を招来してしまった段階で、「政府に緊急提言」するにしては、遅すぎると言うべきである。
既に福島事態が引き起こされて3週間以上が経過している。この間、彼等と、彼等の「原子力の平和利用」の同伴者である、同僚や後輩たちは、原発事故による生命の脅威と生活破壊に苦しむ民衆の苦しみを一顧だにせず、もっぱら、原子力政策を固執する歴代政府と日経連日本資本家階級、電力業界の太鼓持ちとして、「原子力専門家」を騙り、この機に及んでも福島原発事故の実態を隠ぺいし、間違った技術的対往策を講じ、情報を捻じ曲げ、虚偽の情報を流し続けている。これら国家と資本家階級の「待女」らを、野放しにして来た彼らの責任は重い。その事は、今日の危機的状況を幾何級数的に拡大してきた一つの要因と言うべきである。
とは言え、今日まで、福島事態と言う反人倫的行為、反民衆的犯罪行為を引き起こした真の原因も、真の責任の所在も、明らかにされて来なかった中で、この「緊急提言」者達の「国民への謝罪」は、一つの前進と言うべきである。彼等は、「原子力の平和利用」なるものに、基本的に自己批判を加えたのか?それはここでは、明らかではない。今後の動向を見極めねばならない。