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(民衆闘争報道 日本軍「慰安婦」被害者証言キャンペーン2013in奈良、吉見義明教授の講演記録
  <その2> 2013526日)


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吉見義明教授―講演記録] (連載その2
       被害者の声に向き合って記録し、記憶し、未来へ語り継ぐ責任

                                                  中央大学 吉見義明教授

○橋下は、「軍・官憲による暴行・脅迫を用いた連行の有無」だけを問題とし、「軍慰安所での日常的強制の実態」を無視、植民地支配を肯定的に前提として、性奴隷制度を否定し、軍慰安所の必要性まで言及している。
○橋下と安倍が、日本軍従軍慰安婦制度とアジアに対する侵略戦争と植民地支配の正当化を、何故執拗に主張するのか?「日本人の誇り」なるものを利用して国民を動員し、改憲と集団的自衛権行使を狙う国作りに、歴史の歪曲を必要としているからです。 (講演記録から)
    
        
△写真上―526日 於・奈良県人権センターで証言する元慰安婦のハルモニ達。左キル・ウオノク(吉元玉)、右キム・ボットン(金福童)。キル・ウオノク・ハルモニは、13歳の時に"工場で働かしてやる"と言う甘言で誘拐され、ハルピンの慰安所に送られた。キム・ボットン・ハルモニは、"軍服工場で働く"と騙されて、広東の慰安所に送られた。(写真出処―柴野貞夫時事問題研究会)

国際社会は、「日本軍慰安所」を、'軍事的性奴隷制であり、人道に対する罪を構成する強姦センターだった'と告発している。

1993
年、河野洋平官房長官談話に対し、安倍も橋下も、それを認めたくない、守りたくないと考えています。この「河野談話」の中で、「慰安所に於ける生活は、強制的な状況の下での、痛ましいものであった。」と、慰安所での慰安婦に対する強制性を認めているのであります。但し、私の立場から言うと、もっと踏み込んで欲しいと考えています。慰安所での生活は、「強制的状況で痛ましい」と言うだけでなく、日本が作った「日本軍慰安所」は、「性奴隷制度であった」と言う事実を素直に認めた方が良いと考がえます。
「河野談話」は次に、こうも述べています。
「本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性達の名誉と尊厳を深く傷付けた問題である。」と。即ち、「軍の関与と責任」を認めている。ただ、この「河野談話」は、主語がはっきりしていない。日本軍慰安婦問題を引き起こした責任主体が曖昧である。単に「軍の関与」と言う表現でなく、「本件は、日本軍が多数の女性達の名誉と尊厳を深く傷付けた問題である。」と、誤解の余地なく書くべきだと思います。しかし、この談話から日本軍の責任が無いとは言えないのは勿論である。

国際社会は、日本軍慰安婦問題に対しどう対応したのか?代表的な三つの報告を例示

1994年に、国際法律家委員会はその報告書で、「女性達が、日本軍に性的サービスを提供する為に強制、欺罔(ぎきょう)、誘拐された事は議論の余地がない」と結論付けた。
1996年に、国連人権委員会でのR・クマラスワミ報告、また1998年、国連人権小委員会でのG・マウドゥーガル報告で、「軍事的性奴隷制だった。人道に対する罪を構成する強姦センターだった」と告発した。
2007
年、(第一次安倍政権時)安倍は、米国議会で慰安婦問題に対する非難決議が採択されようとした時、これを阻止する為、米国に行った。米高官にたしなめられブッシュに謝りました。
●その時にマイケル・グリーン(ブッシュ政権、国家安全保障会議上級アジア部長)は、(2007310日付<朝日新聞>)「永田町の政治家達は、次の事を忘れている。<慰安婦>とされた女性達が、強制されたかどうかは関係ない。日本以外では誰もその点に関心がない。問題は、慰安婦たちが悲惨な目に遭ったと言うことだ。」基本的問題はここにあると考えます。毎日の様に、2030人の日本軍人を相手に性を強要された事実が問題なのです。
2012
12月雑誌「世界」に、東郷和彦氏(元オランダ大使)が、2007年の歴史問題シンポジュームで聞いた或るアメリカ人の意見を紹介しています。これは、アメリカでの、極一般的な認識であるとしています。このシンポジュームは、2007年米国上院で、「日本軍慰安婦非難決議」が採択されるかどうかの時期に開かれました。
「日本人の中で、<強制連行>があったか、なかったかについて繰り広げられている議論は、この問題の本質にとって、まったく無意味である。世界の大勢は誰も関心を持っていない。/ 性、ジェンダー、女性の権利の問題について、アメリカ人はかってとは全く違った考えになっている。慰安婦の話を聞いた時彼等が考えるのは、'自分の娘が慰安婦にされていたらどう考えるか'と言う一点のみである。そしてゾっとする。これが問題の本質である。/ ましてや、慰安婦が<甘言をもって>つまり騙されて来たと言う事例があっただけで、完全にアウトである。<強制連行>と、<甘言で騙されて、気がつい時には逃げられない>のと、何処が違うのか? もしもそうゆう制度を、<昔は仕方がなかった>と言って肯定しようものなら、女性の権利の'否定者'denier)となり、同盟国の担い手として受け入れることなど問題外の国と言うことになる。」と。
日本は、当時であっても国家が、犯罪であると言う認識をもっていたわけですから、誘拐罪が犯罪でないと言うのはあり得ないはずです。改めてこの点を確認する必要があります。
また、2013129日「朝日新聞」で、在米作家、冷泉彰彦氏はつぎの様にのべている。「現在の米国人の人権感覚からすれば、'本人の意に反して、借金を背負って売春業者に身売りされ、業者の財産権保護の立場から身柄を事実上拘束されている女性'と言うのは、<人身売買>であり<性奴隷>だと見なされます。映画<レ・ミゼラブル>では、ファンティーヌと言う女性がシングルマザーとして経済的な苦境から売春婦になる設定がありますが、'強制連行はなかった'から問題はないとする主張は、彼女の痛苦を否定するのと同じで、セカンドレイプに近い行為と看做されかねない。日本は現在進行形で'女性の権利に無自覚な国'だと思われます。意見広告を出す動きもありますが、これも米国市民には理解されないでしょう。極論すれば、イスラム原理主義者が女性に教育を施すなと言っているのと同じくらい判らない」と。
彼が問題にしているのは、「人身売買で業者の財産権保護の立場から、身柄を事実上拘束されている女性と言うのは、性奴隷として許されない」これはその通りです。
しかし、当時の日本においても、植民地であった台湾、朝鮮において、人身売買により海外に移送する場合には2年以上の懲役に処される犯罪人であると言うのは明確なはずです。殆どの慰安婦は、略取されたか、誘拐されたか、人身売買されたか、すべて(当時の国内法から言っても)犯罪行為によって連れて行かれ、慰安所に入れられ、拘束された。このごく単純な事実が、理解されないと言うのはどう考えても不可解です。

「日本軍慰安所は民間業者のやった事であり、日本国家に責任はない」と言うのは本当か?

もう一つは、この様に言うと、それは「業者がやった事であって日本政府・日本軍に責任はない」と言う見解があります。しかしこれについては、二つの根拠から反論したいと思います。
第一に、民間業者がやったと言うが、「民間業者」とは軍が選定し集めたものです。軍の責任は免れません。
第二に、略取・誘拐人身売買で集められた慰安婦が閉じ込められた「慰安所」は、民間の業者が作ったものでなく、軍/官憲が作ったものです。
(慰安所が)軍の施設として作られたものだと言う事は、今日までの歴史資料で、もはや否定できません。であれば、直接手を下すのが業者であったとしても、犯行の現場は日本軍の管理下にあり、軍の責任は絶対に免れません。
何が問題かまとめますと、「軍の慰安所で強制があった」「慰安婦が強制的に性奴隷として使われた」と言う事実です。そして「連行の形態」の問題について言えば、軍・官憲による略取一般だけでなく、誘拐一般、人身売買一般を問題にしなければなりません。

「(慰安婦制度は)日本だけじゃない。皆がやっているのだ」と言う、道徳的に低劣下等な、橋下の論理

橋下発言のなかに、「日本だけじゃない、皆がやっているのだ」と言うのがある。
まずこの論理の低劣さは、(間違った事を)他もやっているからと正当化する主張であり、倫理的・道徳的に下等な論理と言わなければなりません。
橋本氏は、「あらゆる国の軍隊が慰安所をもっている。これをやったのは日本軍だけではない。」だから「日本政府だけが非難されるのは不当である。」と言っています。本当にそうなのでしょうか?
最も基本的な事実、他の人が万引きをするから自分も万引きをして良い事にはなりません。他国が慰安婦制度を持っていれば、それは悪い事として批判し、自らの場合についても、批判する事が人として必要な事ではないでしょうか?その事によって、日本と日本軍の責任が免れると言う事になりません。
2次世界大戦時、すべての国の軍隊がどうであったかについては、未だ分かっていない事もある。私は全てを説明する能力はありません。しかし、(橋下が言及している)米軍との違いについて若干述べて見たいと思います。

日本の「慰安所」は、軍の命令で軍の施設として作られた日本軍丸抱かえの施設である

もちろん、米軍のまわりで常に「性暴力」が付きまとっているのは自明であり、それは絶対許されない事でありますが、日本の慰安所と比較した場合、米軍の周辺にある「売春宿」のようなものと、どう言う違いがあるのかと言う事を見てみたいとおもいます。
まずそのようなものを、米国政府や軍の中央が認めているのかと言いますと、それを認めた事はありません。その点は日本と違います。米国はその様なものは認めた事はない。1937年、日本陸軍省は、やもう得ないものとして認めています。これは無数の日本軍の公文書記録の中で明らかとなっています。軍の命令で軍の施設として作られた。日本軍丸抱かえの施設であると言うことです。
「慰安所」の建物、物品、資材を提供し、性病検査も軍が直接行っています。これらの点は、明らかに米軍との大きな違いです。
最近明らかになった日本軍施設の規定の一例を紹介したいと思います。もちろん今までに、様々な証拠資料(私が発見したものも含めて)が発表されています。しかしそれよりも新しい資料が出ますと、(歴史家は)それを紹介したくなります。
35師団司令部「営外施設規定」(中国・開封、1943年)に、日本軍の営外施設として、「慰安所」が作られている実態が示されています。

「第二条 本規定ニ於テ営外施設ト称スルハ営外酒保、特殊慰安所、偕行社及其他ノ地方団体等ノ篤志ニ依リ開設シタル軍人慰安施設ヲ謂フモノトス
第三条 営外施設ハ本規程ニ於テ特ニ定メタル場合ヲ除クノ外当該駐屯地ニ於ケル高級先任ノ部隊長(以下管理部隊長ト称ス)管理シ経営又ハ指導監督ニ任スルモノトス 二部隊以下同一地ニ駐屯スル場合ニ於テハ前項ノ管理部隊長ハ各関係部隊ヨリ委員ヲ差出サシメ委員制度ノ下ニ之ヲ管理セシムルコトヲ得ルモノトス
第一九条 中隊以上ノ駐屯地ニシテ該地ノ情況ニ依リ之ヲ必要トスル場合ニ於ケル衛生的且廉価ナル慰安ノ為軍人軍属専用ノ特殊慰安所ヲ開設スルコトヲ得ルモノトス
第二一条 特殊慰安所ノ建物ハ軽微ナル程度ニ於テ経理部長別途経費ヲ以テ之ヲ実施シ管理部長ヨリ受託経営者ニ無償貸与スルモノトシ爾後ノ保続ハ受託経営者ノ負担トス
第二二条 特殊慰安所ノ経営ニ必要ナル飲食品等ハ野戦酒保品ヲ払下グルコトヲ得ルモノトシ其細部ハ軍医部長之ヲ定ムルモノトス
第二三条 特殊慰安所ノ経営ニ必要ナル薬品防護用品等ハ官物ヲ交付スルコトヲ得ルモノトシ其細部ハ軍医部長之ヲ定ムルモノトス
第二四条 師団司令部所在地ニ於ケル特殊慰安所ノ管理経営等ニ就テハ前条ニ依ルノ外別ニ定ムル所ニ依ルモノトシス」
                                                          (文責時事研)
(続く)−この講演記録は3回にわたって連載します。


<関連サイト>

☆356 秘密文書が確証する日本軍性奴隷犯罪(労働新聞2012年8月30日付)

☆355 日本軍慰安婦、正攻法で解決しなければ韓国・ハンギョレ2012年8月28日付)

☆197 《間島大討伐》は、民族抹殺を狙った極悪な殺人犯罪 (労働新聞2009年11月15日付)