ホームページ タイトル

 

(論考 「秘密保護法案は、立憲的ファシズム体制を狙う治安立法である」  2013112



   [安倍政権下の日本の情勢]@
     「秘密保護法案」は、立憲的ファシズム体制を狙う「治安立法」である

 

  

柴野貞夫 時事問題研究会



■ 憲法の上に立つ治安立法

安倍政権は、「秘密保護法案」を1025日に閣議決定し国会に提出した。安倍はこの法を通して、(行政機関は)「国家の安全保障のため、特に隠匿が必要であるものを特定秘密に指定」(第3条)し、「これを害する行動及び、この行為の実行を共謀、教唆、扇動した者及び未遂した者」(第2224条)を、10年〜1年の懲役刑と言う重罰に科し、国家が国民を強権的に支配する軍事的・公安警察的ファシズム体制の第一歩を歩み始めた。

この法的性格は、国民が国家の暴走を監視し批判する義務と権利を規定した日本国憲法と議会制度を、根底から否定し蹂躙する違憲立法と断定できる。

この法は、単に、国家の国民に対する「情報統制」に留まらない。立法府としての国会(議会)の役割を制限し、国家への批判と監視、抗議と抵抗の為の個人や団体の情報活動や政治活動を、国家権力(各種行政機関、警察・軍隊・裁判所)が、恣意的に「国家安保を脅かす秘密の漏洩」として、刑罰を行使し、抑圧する事ができる今日的な「治安維持法」に他ならない。

安倍は、「秘密保護法案」が「国家安全保障会議」(日本版NSC)設置とワンセットと公言している。集団的自衛権の行使の法的整備と合わせ、日米軍事同盟において、米国と緊密な軍事戦略、情報を共有するために必要な法整備だとしている。日本国家が「紛争を解決する手段としての戦争を放棄する」事を否定したのだ。時の政権が、憲法の上に立つ治安立法を作ろうとしているのが、この秘密保護法案だ。

■ 国家の自由裁量で、国民生活に関わるすべての情報が、「安保を脅かす特定秘密」となる

安倍政権が「解釈改憲」による集団的自衛権の「行使」と言う憲法蹂躙行為を「合法化」し、米国の軍事政策と一体化する組織である「国家安全保障会議」設置を狙っている。彼らは、それが動けば、その殆どの行動が、憲法と関連法規に抵触するものであり、国会と国民の目に触れない処で進めなければならないと考えている。

従って、安倍政権は、あらゆる広範囲の事案に対して「秘密保護法案」第3条が規定する「その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれ」ありとして、「特定秘密」に指定し様としている。政府当局者は、自衛隊、米軍基地情報に限らず、原発からTPPまで、国民生活に係るあらゆる情報が、「安全保障に係るならば特定秘密」になるだろうと示唆している。政権が「何が秘密かも秘密」と答えている理由はそこにある。同様に、何をもって「規定する行為の遂行」を「共謀、教唆、扇動」と規定するのかも全く曖昧であり、国家権力の自由裁量に委ねている。天皇制ファシズム国家時代に使い古された文言が踊っている。

■ 安倍犯罪者集団は、憲法の上に聳える軍事・警察国家としてのファシズム体制を、一歩進めようとしている

1928年(昭和3年)、「治安維持法」は、その禁止条項として、「結社ノ目的遂行ノ為ニスル行為」と言う、「何が、その行為なのか分からない行為」で、国家に狙われた数十万の市民が特高警察に逮捕され、75681名が送検され200名が獄死した。

これは、日本国民が国民主権と基本的人権を国家に奪われ「臣民」であった時代の話であるが、安倍は、日本を戦争が出来る国にする為に、立憲的装いをとりながら、国民の基本的人権の全面的否定と、日本国憲法の上に聳える軍事警察国家―ファシズム国家を夢みている。

安倍政権の正体は、日本国憲法を犯している犯罪者集団である。戦前の特高警察は、今日の「公安警察」である。公安警察が自由にのさばる社会の出現は、国民の基本的人権が、家畜の命より軽視される時代の到来を意味する。

「秘密保護法案」は、ファシズム国家への夢を実現しようとする安倍政権の、我が国民への大きな一撃である。国民は、この一撃に10倍返ししなければならない。

■ 「密約」と言う、国家の犯罪を摘発した国民が、犯罪者として重罪を科せられる場合もある

実質的な日米軍事同盟である、日米安保条約は、本来「極東条項」と「事前協議」によって、米軍の軍事行動と基地使用に制約を与えている国際条約である。在日米軍基地に、無条件の使用を認めてはいない。しかし安倍自公政権は、国会(立法府)の承認もなく、米国と交わされて来た「密約」によって在日米軍に基地の無制限な使用を許している。

アメリカ帝国主義とその軍隊は、この日本の基地から、帝国主義的野望のための世界展開を企んで来た。そして今、日本自衛隊に集団的自衛権の行使を「合法化」させ、名実ともに日米軍事同盟の一員として、戦争が出来る軍隊に機能させ様と執念を燃やしている。

米軍との幾多の密約−●「朝鮮有事の米軍自由出動密約」●「沖縄への有事時核持ち込み密約」●「艦船・航空機の核持ち込み密約」●「地位協定3条密約」●「沖縄返還費用の肩替り密約」などは、在日米軍に、無制限の基地使用を容認し、沖縄を米軍の世界展開基地とする根拠をあたえてきた、これら、国家の犯罪行為は、一部は、国会議員の調査活動や学者、新聞記者(毎日新聞・西山記者)などの情報収集活動によって、或いは米国の情報公開制度によって明らかになった。しかし、政府当局者らは、これらの調査や情報収集も、「特定秘密の対象となり得る」と公言している。

憲法第41条は、国権の最高機関は国会であると規定する。国会の議決もなく、世界で唯一の被爆国として、非核三原則を歴代政府が国是として来た核の持ち込みや、国民の命を左右する在日米軍の無制限な軍事行動を許容すること、主権を持つ国家が米軍の犯罪行為を裁く事に制限を加えられることを受け入れる密約など、過去この国際法(安保条約)を承認した立法府(国会)の、承認を受けていない不法な取り決めであり、国民を騙した国家の犯罪行為である。

国家の犯罪を国民が調査し、摘発する行為が、逆に国家によって犯罪として重罪を科せられるなら、我々は、もはや、国家と言うもの正統性を認めるわけにはいかないのである。

■ 内閣情報調査室・橋場参事官は、“原発関連施設は安全保障に関わる特定秘密”として、隠蔽をほのめかした

さらには、政府当局者は、福島第1原発事故で、今もなお400万人の国民を、「放射線管理区域」に放置し、高濃度汚染水を平然と海に垂れ流している日本政府と東電の動きを調査したり、公表したりする事さえ、「特定秘密の対象となり得る」と公言している。

1024日国会内での超党派と市民による対政府交渉の中で、内閣情報調査室・橋場調査健参事官は、「核物質貯蔵施設」、「原発関係施設の警備等に関する情報、テロ活動防止に関する事項として特別秘密に指定されるものもある。」と言明した。これは、「原発の内部構造、事故の実態」さえ、政府の裁量で特別秘密の指定範囲にされると言うことだ。

福島第一原発では、現在まで、国家と東電によって「秘密保護法」がなくとも、国民の命に係る情報が隠蔽され、数十万人の命が危険にさらされてきた。1号機のメルトダウンが知らされたのは、2か月後だった事を想起しなければならない。それによって、何十万の東北県民が高濃度放射性物質によって被曝したのである。今後、ただでさえ隠蔽されてきた情報は「秘密保護法」によって、さらに隠蔽されるだろう。

■ 人間の思想を、死刑と言う重罪で裁こうとした「治安維持法」と共通する「秘密保護法」

19253月に帝国議会で可決された「治安維持法」は、1928年に改正され、死刑をはじめとして、刑罰が強化された。この法の特徴は、思想と信条を法の裁きの対象とし、人間の思想を死刑で抑圧しようとした所にある。

「国体ヲ変革シ又ハ私有財産制度ヲ否認スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シ又ハ情ヲ知リテ之ニ加入シタル者ハ十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス」は、1928年(昭和3年)改正で、「国体ヲ変革を企てたもの」には死刑が付けくわえられた。

同時に、「結社ノ目的遂行ノ為ニスル行為」の禁止規定で、国家と警察に不都合と思われた人物は、すべて逮捕された。

「行政機関」によって恣意的に「特定した秘密」とされた情報を漏らした者も、それを伝え聞いて国民に知らせた者も、またその情報を聞いて、国家を糾弾する行動に出た国民も、そんな情報を集める為に、共謀・教唆したとして「秘密保護法」で刑罰を受ける可能性だってあるとなれば、これは「治安維持法」以上の「ファシズム法」と言わなければならない。

外交、自衛隊、米軍等における国家の不法行為を、批判監視する情報活動や、それを大衆行動として展開することは、「思想・信条」の自由に基づく国民の権利の行使だ。秘密保護法」(罰則)条項の、第22条、23条、24条の各項目で、「特定機密を知得した者が漏らしたとき及び未遂」(222)は無論、「特定秘密保有者の管理を害する行為で取得した者及び未遂」(第23条)、また、「22条、23条に規定する行為の遂行を共謀、教唆、扇動した者に対し、10年から5年と言う殺人犯並みの重刑を科そうとしている。国民の知る権利、表現の自由の行使を、逆に犯罪として取り締まろうとするものである。

「秘密保護法案」の、第22条〜24条に規定された「罰則」は、(死刑が無いだけで)「治安維持法」の罰則条項の表現とあまりにも瓜二つだ。

治安維持法では、「国体の変革」と「私有財産制度の否認」の目的で結社を組織し、加入した者に留まらず、「ためにする行為をした」と国家が認めた者であれば、見境いなく逮捕した。逮捕者総数−数十万名、送検者―75681名、拷問での死者65名、獄死114名、逮捕後、死亡した者1500名に達した。(「治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟」の資料から)

■ 日本国家が、1925年「治安維持法」を帝国議会に上程した目的は何処にあったのか

<第一次世界大戦後の日本資本主義の危機の時代は、2008年世界恐慌から始まる日本資本主義の危機として繰り返されている。>

日露、日清戦争を経て、1910年、朝鮮王国を姦計と暴力で強占した日本帝国主義は、朝鮮に対する軍事的警察的強権支配の下、朝鮮民族を経済的政治的に隷属させながら、朝鮮植民地経営を足場に、中国東北部への侵略を画策していた。第一次世界大戦後の植民地分割競争を勝ち抜くためのアジア膨張政策は、国家予算の45%を占める軍事費や、1923年の「関東大震災」による巨大な負担によって、日本民衆に生活破綻と貧困を押しつけた。1917年ロシア革命に共鳴する政治結社の登場と資本家の過酷な労働支配に抵抗する労働運動が頻発した。朝鮮では、大規模な三・一独立運動や、「東学党の乱」が、日本の植民地支配を揺るがしていた。

とりわけ、日本国家と治安当局(内務省警保局)は、東京を焦土と化し、10万人が死亡した事件を前に、国民の政府・国家に対する日頃の不満と抗議の矛先を、朝鮮人に向けるために、意図的なデマを流布させた。内務大臣 ・水野錬太郎(前朝鮮総督府・政務総監)は、93日,千葉県船橋の海軍送信所から、各地方長官宛に内務省警保局長名で、朝鮮人が放火をしていると扇動、朝鮮人撲滅を打電。「震災に乗じた不逞朝鮮人と、これに和した過激思想の輩」の取り締まりを要請し、国家の手先となったあらゆる新聞が、<不逞朝鮮人>による、火付け、強姦、暴動、井戸への毒投入等の、あらゆる流言飛語を垂れ流し、大震災そのものが、<不逞朝鮮人>の放火だと言う噂まで流した。

朝鮮人・中国人約7000名の虐殺は、軍・警も加担したが、関東各地に組織された「自警団」が中心的役割をはたした。この日本人民衆の虐殺行為は、日本人の屈折した朝鮮人差別の構造的要因のひとつでもある。日本国家の責任とともに、日本国民もまた、この忌まわしい民衆による加害責任に正面から向き合わなければならない。

この様に、1925年の治安維持法のねらいは、中国満州侵略を狙い、日本民衆を国家総動員体制にねじ伏せるために、「法整備の体裁」を取り繕った日本軍事ファシズム体制の確立にあった。同時に、この日本ファシズム国家は、国民の意識をこのファシズム国家に統合する為に、アジアの上に立つ日本民族優越主義に基づく、国粋主義の旗を振ったのである。1927年山東出兵から、1931年の満州「事変」へと続く中国とアジアへの全面的な侵略は、ここから始まったといえる。

■ 過剰生産恐慌で絶えず死の恐怖に怯える日本資本家階級の選択肢は、働く民衆にあらゆる犠牲を強い、暴力的に抑圧し黙らすことだ

19201929年代における資本主義世界下の日本の政治状況は、2008年の世界金融危機からはじまった世界恐慌のなかで死の苦悶に喘ぐ日本資本主義と、姿は変えても基本的には同じだ。

過剰生産恐慌は、資本主義世界と資本家階級に永続的な襲いかかる死のカードだ。こんな状況で日本資本家階級の選択肢は一つしかない

国内では、働く民衆に、あらゆる犠牲を強いることと、彼らを暴力的に抑圧し、黙らす手段を講ずることと、世界に対しては、米帝国主義の力も利用しながら、軍事的プレゼンスを後ろ盾に、帝国主義的権益を追及することだ。

完全失業率は4.1%、正社員率、基本給、雇用の悪化。TPP−、消費税、社会保障費、医療費年金の削減、若年層失業率の拡大、格差の拡大、医療制度の破壊、セイフテーネットからの国家の撤退。ブラック企業の跋扈、首切り特区、労働者派遣法のさらなる改悪。労働の自由裁量化!一方大企業減税の推進、復興税は民衆におっかぶせ、大企業には前倒しで9000億円も免除し、庶民の銀行預金金利は殆どゼロだ。一方、大企業は、1997年〜2012年の間に270兆円の内部留保を貯めこんだ。こんな状況に、日本の民衆がギリシャの労働者階級の様に立ち上がる前に、手を打たねばならない。安倍と日本資本家階級がファシズム体制を目指す意図は、ここにある。

■ 憲法の核心である、国民の基本的人権を否定する犯罪者・安倍は、立憲を装ったファシズム国家へ一歩、歩み始めた

唯物論哲学思想を研究し、論文・著作を著した、唯それだけの理由で、「治安維持法」によって牢獄に繋がれ獄死した、唯物論哲学思想家・戸坂潤は、その著「日本イデオロギー論」(1935年)で、当時(1930年代)の日本の国家体制の性格を、国際的普遍的な視点で分析し、我々の時代を予見するかの様に、生き生きと分析している。

戸坂潤のファシズム分析は、同じ時代を生きたロシア革命の指導者、レオン・トロツキーのファシズム論との共通性が高い。

戸坂は「ファシズム」が、独占資本主義の危機の時代に動揺する中間層を利用した独占資本主義の政治機構であるとして、次のように言う。

「一般にファシズムは、独占・金融資本の、必然的な社会的政治的体制である。

独占資本主義が帝国主義化した場合、この帝国主義の矛盾を対内的には強権によって蔽い、かつ対外的には強力的に解決出来る様に見せかける為に小市民層に該当する広範な中間層が、或る国内並びに国際的な政治事情によって社会意識の動揺を受けたのを利用する政治機構である。」

戸坂は、「ファシズム」が国家権力を掌握に向かう過渡期、議会制度を利用することを、「立憲的ファシズム」と規定した。

「独裁制に対する議会制度が、俗に自由主義だと言われている。しかし、今日の日本の議会制度は、まだ議会制度としても事実上かなりの程度まで<ファッショ化>してしまっている。政府や官僚や軍閥が、議会やブルジョア政党そのものが、議会制度の名目と、また実際には或る程度までの実質とにも拘わらず、他のもの、いわば議会制度を採用した一種のファシズムとなっている。これは、立憲的ファシズムである。」

安倍と日本資本家階級が、未だ憲法改悪を実現出来ない状況で、憲法を否定し、憲法の上に立つ立法を企み、或いは憲法の不当な解釈で、憲法の核心である、国民の基本的人権と戦争の放棄を否定することは、立憲を装ったファシズムであると言っているのである。

■ 日本国憲法を蹂躙する犯罪者集団・安倍政権を決して許さない

<司法の場で、国家による憲法蹂躙行為だと断じた二つの裁判は生きている> 
@ 2008
417日、名古屋高裁民事第三部の青山邦夫裁判長は、「自衛隊イラク派兵差し止め訴訟の会」による、「日本政府によるイラク派兵と言う違憲行使の取り消しと、賠償請求」訴訟に対し、「行政府による「自衛隊イラク派兵」と言う違憲行使の取り消し変更と賠償請求に対しては、「行政権の行使に対し、私人が民事上の損害賠償請求権や取り消し変更の請求を有するとは解さない」(判決)とするも、控訴人らの本裁判の民事請求の根拠としての「違憲確認請求」にたいしては、国家による違憲行為を根本的に認めるとした
A   1957年、米軍立川基地拡張工事(滑走路に反対する延伸工事)を阻止しようとする地元反対同盟と支援の労働者・学生が、基地内になだれ込んだ行動に、国家は、「日米安保条約に基づく刑事特別法違反」として7名を起訴した。しかし、19593東京地裁・伊達秋雄裁判長は、「日本が在日米軍に、基地の提供、費用の分担など協力した事は、憲法第9条が禁止する陸海空軍その他の戦力に該当する。憲法上その存在は許されない。在日米軍を保護する刑事特別法は憲法違反である」と無罪判決を出した。
我々は、「秘密保護法」と「集団的自衛権の行使」と言う、安倍犯罪者集団のファシズム国家への動きに対し、断固として反撃しなければならない。(続く)

<次回予告>
[安倍政権下の日本の情勢]A