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(論考/「日本政府は≪拉致問題≫が決着済みであることを隠蔽している」 2012520日)

      −拉致問題の検証−
     日本政府は「拉致問題」が決着済みである事実を隠蔽している


                                                  柴野貞夫時事問題研究会

○日本国民は今こそ、日本の支配階級が「拉致問題」を米国と連動し、政権維持と国民支配の道具として利用していることに気付かなければならない。
○日本政府は、「拉致問題」がすべて解決済みである事を、国民の前に明らかにすべきである。
○すべての日本国民は、日本政府に対し、朝鮮民主主義人民共和国に対する「敵視政策」を止めさせ、ピョンヤン宣言の履行を通して、過去清算を実行し、国交回復を実現する事を要求しなければならない。

(1)日本人民が取るべき道は、日本政府に日朝ピョンアン宣言の履行を迫る事である

朝鮮民主主義人民共和国に対し、戦後一貫して、世界一の軍事力を伴った政治的覇権によって、北に対する侵略と抑圧の政策をとり続けて来たのは他でもなく米国である。いまだ彼等によって、朝鮮戦争の休戦状態は継続中であり、何日何時、半島で戦争が開始されても不思議ではない状況が1953年以来継続されている。この様な朝鮮民族の悲劇に、我々日本国民は、如何なる責任もないと言えるのか。
朝鮮政府は事ある毎に、米国に対し、休戦協定を平和協定に置き換えて締結する事を呼び掛けてきた。しかし、朝鮮政府の度々の呼びかけにも拘わらず、米国は、今も一貫して平和協定の締結を拒み続けている。
その理由は、米国が、極東アジアでの軍事的覇権を通して、自国の政治的・経済的プレゼンスを高めるだけではなく、あわよくば、中国大陸と朝鮮半島の社会主義体制の崩壊と、その資本主義市場化によって、過剰生産恐慌による死の苦悶から生きのびる事が出来るかも知れないと言う、勝手な望みをもっているからだ。
朝鮮戦争休戦から60年、冷戦終結から20有余年、米国とその同盟国によって軍事的政治的に、過酷な抑圧に晒されてきた国家が、世界最強の軍事国家の攻撃の的とされ、冷戦の終結にも拘わらず、冷戦と変わらぬ状況に取り残されたこの様な国家が、世界中で他にあるだろうか。
40年にわたる日本帝国主義の植民地支配の罪過に加え、戦後には1950年〜1953年の朝鮮戰争で米国に加担し、朝鮮民族400万の殺戮に手を貸し、戰争特需でひとたま儲け、戦後復興の元手として来た日本人が、戰争を生業(なりわい)とし、戰争経済で生き延びる米国の尻馬にのり、一緒になって朝鮮民族を敵視し、核攻撃の脅しを加える事に、どんな正当性があると言うのだ。
日本国民が、自国の資本家政府と一緒になり、戦争国家米国に加担することで日・米資本主義国家の危機を救う事が出来れば、朝鮮民族への過去の罪過の償いなどどうでも良いと考えるなら、それは天が許さないだろう。
日本国民の取るべき道は、日本政府に対し、○過去40年にわたる、日本の朝鮮植民地支配への清算をすみやかに行う事を求め、○「反共和国敵視政策」を放棄する事を要求し、○米国と韓国に追随した「北敵対政策」への加担を止めよと主張し○米国に追随した不当な、経済的・政治的「制裁行為」を即時中止する事を要求する事にあるのではないか。
その事を通して、我々日本国民が一致して、過去植民地支配の清算を果たし、一日も早い日朝国交回復の道筋を切りひらき、朝鮮民主主義人民共和国の平和的な経済建設に、ともに力を合わせることが求められている。それこそが、朝鮮半島から戦争の火種を取り除く大きな力となると、我々は確信する。

(2)拉致問題を、対北敵対政策と国民支配の道具にする政府

すべての事実経過は、小泉から現在の野田に至る歴代政権が、拉致問題が実際にはすでに解決ずみである事実を把握し、認識しておきながら、日本国民と拉致被害者家族に対しては、その事実を隠蔽し、逆に、「拉致問題の未解決」を捏造して、国内的には政権維持の道具として利用し、国際的には米国とともに、「国際的人権問題」として浮上させることで、米国の対北敵対政策と連動させていることを明らかにしている。
日本政府の「拉致問題未解決」なるねつ造は、国内に、民族的排外主義の風潮の醸成、反共和国感情を拡大させ、日朝関係の悪化を促し、また、「北の脅威」を煽る事によって、日米軍事同盟と米軍基地の強化を促し、沖縄普天間米軍基地撤去を先延ばし、日本国憲法の改悪への道筋の露払いとなっている。
また、「拉致問題未解決」を主張する政府の態度は、西岡力を会長とする「拉致された日本人を救出する全国協議会」や、「拉致議連」など、日本天皇制軍国主義による朝鮮植民地支配を正当化する右翼グループ等が次々に持ち出す、根拠のない行方不明者を「北に拉致された被害者」として、取りあえず受け入れる猿芝居を演じなければならない立場に追い込んでいる。
時事問題研究会は、今回、事実として決着済みの、有りもしない「拉致被害者の生存」を前提として、「拉致問題の解決なくして、日朝関係の改善はあり得ない」と、オームの様に繰り返しながら叫ぶものの、なにひとつ、その「拉致問題の解決」なるものの道筋を示すことが出来ない野田政権に代わり、現地取材を含め、新らしい事実に立ち帰りながら、「拉致問題」なるものが、事実上すべて決着している事実を明らかにしたいと考えている。
2002年第一回小泉訪朝から、最も近い日朝交渉であった2008年瀋陽協議まで、今回の我々の調査で明らかになった、朝鮮側の真摯な「拉致被害者」の調査活動の実態と、それに対応した日本外務省を始めとする関係者の行動、さらには、これまでの日朝協議の中での、朝鮮側と日本側のやり取りの記録から、年月を追う形で「拉致問題」の真実を明らかにしたい。

(3)「拉致」発生の経緯

1970年代〜1980初め。日朝間の敵対関係を反映して、「特殊機関の一部英雄主義者の自由主義的行動」として誘発された、一部の英雄主義者の行動であった。当時、背景として、日本は対外的に、米国の反共和国敵視政策に便乗し、国内的には「朝鮮総連への弾圧、外国人登録証問題、朝鮮公民への民族的差別、朝鮮人強制連行事件・日本軍性奴隷への日本政府の対応、などがあった。
朝鮮・米国間では、19681月、朝鮮領海奥深く侵入したスパイ艦船(佐世保を基地としたプエブロ号)の捕獲で、空母エンタープライズが動員され一触即発の事態が生まれ、南朝鮮では、19718月、金日成主席暗殺を目的とした特殊部隊31名が、韓国インチョン沖合のシルミドにて、パク大統領の方針転換による彼等の暗殺処分に抵抗し、青瓦台に進撃、鎮圧される事件、そして朴軍事政権に抵抗する南朝鮮の広範な民主化運動への血の弾圧、人民革命党事件など、朝鮮半島をめぐる騒然たる状況がうまれていた。この様な歴史的背景の中で生まれたのが「拉致問題」であった。

()13人の安否調査の開始

199912、村山元首相を団長とする日本政党代表団訪朝時、日本側は13人に対する安否調査を要請。
20033、北京で、朝日赤十字会談が行われ、朝鮮側は、(日本側に)当該機関で調査を開始する通報を行った。
20028朝、日赤十字間で、朝鮮の特別委員会が、日本人不明者の全国調査を開始した。
916その結果を集計。


() 金正日総書記の拉致問題に対する謝罪と、日朝ピョンヤン宣言の締結

2002917小泉首相のピョンヤン訪問において、金正日総書記が自ら「特殊機関の英雄主義的個別行動」であるとの、当該機関の調査結果を踏まえ、謝罪し、実行者の処罰まで約束した。同時にこの日、朝日両国は、ピョンヤン宣言を締結し、日本の過去清算と国交正常化に向けての踏み出す事を取り決めた。
「両首脳は、日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが、双方の基本利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大きく寄与するものとなるとの共通の認識を確認した。
1
.双方は、この宣言に示された精神及び基本原則に従い、国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注することとし、そのために200210月中に日朝国交正常化交渉を再開することとした。
 双方は、相互の信頼関係に基づき、国交正常化の実現に至る過程においても、日朝間に存在する諸問題に誠意をもって取り組む強い決意を表明した。
2
.日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した。
 双方は、日本側が朝鮮民主主義人民共和国側に対して、国交正常化の後、双方が適切と考える期間にわたり、無償資金協力、低金利の長期借款供与及び国際機関を通じた人道主義的支援等の経済協力を実施し、また、民間経済活動を支援する見地から国際協力銀行等による融資、信用供与等が実施されることが、この宣言の精神に合致するとの基本認識の下、国交正常化交渉において、経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議することとした」(中略・ピョンヤン宣言)

2009118日、NHKが日本外務省の日朝交渉に関わる機密議事録を手にいれ、それを基に放映した「秘録―日朝交渉、知られざる核の攻防」に於いて小泉訪朝による第一回日朝首脳会談での金正日総書記の肉声を、各紙新聞記事をも参考にしながら。東大名誉教授・和田春樹が「世界」2012/3月号<金正日氏と日朝国交正常化>なる稿で次のように伝えている。
「拉致問題について説明したい。調査を進め内部の調査も行った。この背景には数十年の敵対関係があるが、まことにいまわしい出来事である。率直にお話申し上げたい。我々としては、特別委員会を作って調査をした結果が、お伝えしたような報告である。自分としては、70年代、80年代初めまで特殊機関の一部が盲動主義、英雄主義に走ってこう言う事を行なってきたと言うふうに考えている。こうゆう事を行ったのは二つの理由がある。ひとつは、特殊機関で日本語の学習が出来るようにするため。ひとつは、ひとの身分を利用して南に入るため、私がこう言うことを承知するに至り、これらの関連で責任ある人びとは処罰された。これからは絶対にない。自分としてはこの場で、遺憾なことであったとお詫び申し上げたい。この様なことが二度とおこらないよう適切な措置を取る事とする」と。和田春樹教授は、「国家としての公式説明としてみれば、通常ありえないほどに立ちいって、驚くような率直な説明をし、謝罪している。金正日総書記の政治的決断力と問題を解決しなければならないと言う強い意志が感じられる」と述べている。

(6)5名の里帰りと第一次政府調査団の受け入れ

2002919外務省スポークスマン談話において、拉致発生に対し遺憾表明を行い、再発防止を約束し、被害者の帰国問題については本人意思に従って帰国させる用意を表明した。
2002928日〜101日まで、日本政府調査団10名の訪朝を受け入れた。そこで、「事件発生の経緯、被害者の生活経緯、死者8名の死亡原因、事件関係者への処罰状況、被害者の遺品など、ありのままを日本側に通報した。
2002930日、訪朝した政府調査団の外務省関係者は、ファンヘナムド・インサングン(黄海南道・麟山郡)に向かう。墓が水害被害によって山崩れに遭い、流出した現場の状況を直接確認した。
○同930日、外務省関係者はオボンサン(五峯山)・事業所(火葬場)に向かい、そこに保管されていた「松木さん」の遺品を受取り、朝鮮民主主義人民共和国の火葬方法についての詳細な説明を受けた。
○同930、同じく日本外務省関係者は、横田めぐみさんが入院した「ピョンヤン49号予防院」を訪問し、当時の目撃者、関係者の聞き取り調査を行った。


(7)日本政府、朝鮮赤十字社関係者をホテルに監禁し、5人の朝鮮帰還を阻止する

20021015日朝政府間の合意により、生存者5名の12週間の故郷訪問のため、日本へ送ることとなった。
しかし、日本政府は、生存者5名と同行した朝鮮民主主義人民共和国の赤十字関係者をホテルに監禁し、一切の外出を禁止した。また、朝鮮へ(1〜2週間の日本滞在の後)帰る予定で、現地にすべての生活環境と子供を残して、旅行カバンひとつで来た5名の生存者との接触も遮断した。これは、朝鮮側が、訪朝した日本外務省関係者に対応した国際的な道義的態度に比べ、朝〜日政府間で取り交わした正規の外交取り決めを踏み躙る常軌を逸した態度であった。
20021030日本政府は、帰郷した5名の日本滞在が1〜2週間であることの約束を破り、ピョンヤンへ返さないと決定した。
この決定は、小泉訪朝の最大の目的であり成果であった、日朝正常化を取り決めた「ピョンヤン宣言」を自ら貶(おとし)め、影に追いやり、それと似ても似つかない「反北敵対キャンペーン」で国民を動員し、日朝正常化をピョンヤン宣言に沿って推し進める展望を、日本政府自ら踏みにじる事態を生みだした。
日本政府のこの行為は、まともな国際外交ではなく、相手方の和睦の使者を平気で殺す、日本の16世紀戦国野盗の心根と何等変わらない、卑劣な騙し打ち外交であった。当時、小泉首相に同行した安倍副官房長官は、日本の言論媒体に対し、一貫して、拉致被害者の朝鮮帰還は「約束していない」と、どうせばれる嘘でしらを切り、「拉致被害者」を返さないのは、「北朝鮮が信用できないからだ」と、国際外交を土足で蹴る幼稚な個人的極右感情で、反北敵対感情を鼓吹した。一体彼は、何のために小泉とともに関係改善交渉に同席したのか。
今回の訪朝でお会いした、朝鮮政府外務省のチョ・ビョンチョル(趙炳哲)研究員は「今日まで、日本と取り決めたどんな<外交的合意>も、あってなきものである」と指摘したが、まったく当を得ていると言うべきである。
日本政府の、朝日関係改善とピョンヤン宣言を貶(おとし)める、予想だにしなかった「拉致被害者を返さない」と言う合意違反があったとしても、朝鮮政府はこの段階において、朝日間の懸案であった「拉致問題」は、「ピョンヤンに残された子供たち」の問題を除いて、基本的に解決したと認識した。「ピョンヤンに残された子供たち」とは、日本政府自らが播いた種であった。

()ピョンヤン宣言を貶(おとし)めた日本政府

2002917日、小泉首相とかわされた日朝正常化交渉の最大の成果である、「ピョンヤン宣言」の調印による正常化への流れを、大きく妨害する動きが、5人の朝鮮への帰還阻止を契機にはじまったのだが、交渉当事者であるにも拘らず、拉致問題の政治的利用を企ててきた(当時)安倍副官房長官を先頭とした一派は、「拉致」解決に向けての朝鮮側の誠意や、努力、相方の合意を無視、国民に反共和国感情を鼓吹するキャンペーンを展開した。
彼らによって、5人の帰還を阻止する事態によって生みだされた、「ピョンヤンに残された子供たち」の問題も、共和国に対する、日本国民の敵対意識の醸成にすり替えられ、利用された。
「残った子供は人質にされる」だの、「5人は、朝鮮に戻れば永久に日本へ帰れない」などの反北扇動が、安倍や「拉致された日本人を救出する全国協議会」などの極右グループと、それに指導された「拉致家族会」などが、言論媒体を動員して繰り広げた。
日本のあらゆる新聞、放送媒体も、こぞって「反北」キャンペーンに参入した。日本政府と、右翼勢力に支配された「拉致家族会」が一体となり、自由な報道を規制する彼等の要求に、報道各社が唯唯諾諾と従った。
この時期、天皇制戦時国家の報道管制が再現された事実に対する、自己認識と歴史的反省の希薄さが、今日まで続く根拠なき「北敵対報道」の垂れ流しに手を貸す事となった日本の言論界の、体たらくを生み出しているのだ。
朝鮮民主主義人民共和国が、日本側からの拉致問題提起以降、誠心誠意努力し、金正日総書記、すなわち国家元首自らが、国家の一部特殊機関の「英雄主義的、自由主義的行動」に対する謝罪と犯人の処罰、今後の再発防止を約束するなどと言う事例は、世界の歴史においても稀なことである。我々は、その政治的決断力と誠実さを受け入れる事こそすれ、ともに合意した事を踏み躙り,あまつさえ、反共和国感情を煽り立て、対決の雰囲気を作り出す事に、どんな歴史的合理性や、積極的意味があると言うのであろうか。
ピョンヤン宣言で謳う、過去植民地支配への反省など微塵も無かったかのように、反北反朝鮮の昂揚感で溢れ返った当時の異常を思い出すだけで悪寒が走る。
20012月に登場したブッシュ政権は、ブッシュ・ドクトリンで「核体制の見直し」を提唱し、核の先制攻撃を正当化した。20031月にブッシュ政権は、ピョンヤンにケリーを送り「北が合意を破った」と、クリントン政権との朝米合意で決められた自国の「義務不履行」を隠蔽し、国際世論を騙しながら、朝鮮を「ならずもの国家」と名指し、「朝米合意」を全面破棄し、北への敵対路線を先鋭化させた。20033月には、大量殺人破壊兵器の存在をでっち上げ、イラクへの侵略戰争を開始している。
朝鮮民主主義人民共和国に対する、米国の核攻撃は実際に準備されていた事実は,後のブッシュ回顧録で、中国・江沢民主席との会談からでも、あきらかである。
この様な国際的背景の中で米国に一定の距離を置いて成し遂げられたピョンヤン宣言の歴史的意義は大きい。しかし、この時期における日本政府の、「拉致帰還者」をめぐる反北敵対行動の展開は、ブッシュのイラク侵略や朝鮮に対する核戰争準備と連携する結果となった。
日本政府は、「日本と世界の世論」に向かって、拉致問題が全く未解決かの様に装い、「拉致問題が解決されてこそ、朝日国交正常化交渉が再開される」と、米国の北敵対政策に便乗し、対決と圧力を提唱、拉致問題を北孤立政策に結び付ける策動を行った。

()第二回小泉訪朝と、警察関係者7名を含む第2次調査団の受け入れ

2004522。朝鮮民主主義人民共和国は、小泉の第一回訪朝後の日本側の合意破りにも拘らず、朝日国交正常化とピョンヤン宣言の履行実現に向かって、小泉首相の第二回の訪朝を受け入れた。
2009118日、NHKが日本外務省の日朝交渉に関わる機密議事録から、第2回首脳会談での金正日総書記の肉声を聞いて見よう。
「私から少し心配なことを申し上げたい。今回会談を行った後で、その内容が覆るようなことがあると、私は総理の相手役として演劇に出演したことになり、あとには何もいいものが残らないようなことになってしまう。われわれは前回勇敢に措置を取ったので、拉致問題はそれで終わると思っていた。しかしながら、総理が帰国された途端、複雑な問題が起こり、我々は失望した。民主社会に置いても、首班の権限はあると思っていたが、政府首班としての総理の権限はこの様に簡単に崩れるかと思うと失望せざるを得ない。」と金正日総書記は語った。
和田春樹教授は、「この重要な表明に対し、小泉首相がどう答えたかをNHKは紹介せず、これに対し小泉は、会談を通じて拉致問題の解決を繰り返し求めたとの説明でながしているが、これは明らかな誤魔化しである。おそらく、小泉首相は、前回会談以後の事態について、遺憾の意をしめし、今度は心配しないでほしい。しっかりやって、国交正常化へ向かって進む決意だと表明したはずだ。そんな確認が前提されなければ金正日総書記は、再会談をする事は出来ない。金正日総書記は、小泉首相のその言葉を信じたのだ」と指摘している。
2004522小泉首相、第二回訪朝が行われ国家間の正常な関係のない中で、国藉をはじめ領事関係において、いろんな難問題がある中で、生存者5名の子供をすべて日本に送る決定をした。
20046月、日本側の提案である、安否不明者の調査委員会を改めて組織し、稼働させた。
20047日本側要望を受け入れ、拉致と関係のないジェンキンスと娘を日本へ送った。
2004811日〜12日、及び925日〜26日の2にわたる朝日北京接触で、再稼働の調査委員会の結成を日本側へ通報した。
2004119日〜15の間に、外務省アジア大洋州局長、薮中三十二(ヤブナカ・ミトジ)を団長とする日本政府代表団のピョンヤン訪問は、日本側の合意破壊で生まれた問題の解決を含め、拉致問題に残されたすべての懸案を解決する場となった。
国交のない朝日両国の関係で、警察(および公安)関係者の入国は、決して許されない事案であるが、日本側が、残されたと考える問題の「合同調査」を希望した為、朝鮮側は最大の配慮をもって、外務省内閣官房(家族支援室・法医学)とともに、7名の警察関係者の入国を承認した。
朝鮮側は、死亡者8名に対する入国経緯、生存時の生活経歴、死亡時の経緯などとともに、それぞれの写真、パスポート、病歴書、横田めぐみさんが使用していたバトミントンのラケットなどの遺物、生存者の子供の、教育進行確認の文書など、証拠となるすべてのものを日本側に移管した。8名の)死亡確認のため、14名の目撃者と生活体験の面談と聞き取り調査を行った。

10)拉致実行者の処罰に関する裁判記録を日本側に移管

また、法制上何の法的裏付けはないが、(特殊機関員の実行者の)処罰に関する裁判記録も日本側に移管した。めぐみさんが生活していた招待所、49号予防院に関しても、日本側の要望を受け入れて現地の調査も実現した。
薮内団長の要請に従い、めぐみさんの夫との面談は2回にわたって実現し遺品などは夫が直接日本側に手渡した。薮中三十二団長は、横田めぐみの遺骨を受取り、その際、めぐみの遺骨は、(私的な埋葬のためであるので)公表せず、両親に直接伝達する事を、書面で約束した。

11)朝鮮政府、「拉致問題」は最終的に解決したと認識

朝鮮側は、日本側が要求する全ての事案に、出来得る限りの誠意と努力を傾け、調査結果のすべてを日本側に通報し、8人の死亡に関するすべての遺品を日本側に移管した。ここに、13名拉致被害者のすべての調査が解決した。日本側団長である、外務省アジア大洋州局長、薮中三十二も、朝鮮側の誠意と努力に感謝を表明した。
先に記述した様に、朝鮮側は、第一次小泉首相訪朝直後の2002928日から101日にかけて、10名の日本政府調査団を受け入れ、拉致被害者8名に関する生前の生活状況、目撃情報の面接、現場への訪問など、詳細な調査を行ったが、今回(日本側の合意破りにも拘らず)再び1週間にわたり、更に詳しく、調査を重ねる機会を朝鮮側から得たことになる。日本側の要求すべてに応じた朝鮮側が、その後日本側も、拉致問題の終結を共有し、ピョンヤン宣言の履行と、国交回復・朝日関係の改善に向けて共に歩み始めるものと認識したのは、至極当然なことである。

12政府は横田めぐみ遺骨を偽物とでっちあげる

日本代表団は、朝鮮から帰国した途端、自分達が約束した事を裏返し、「拉致問題は依然として未解決であり、横田めぐみの遺骨は偽物だ」とする、信じ難い行動に出た。
横田めぐみの遺骨は、両親の懐で抱かれる約束が、事もあろうに、そのまま事件発生地の新潟県警に運ばれ、科学警察研究所、帝国大学法医学教室、日本歯科大学の三つにバラバラに分けられ、持ち去られた。彼等は、朝鮮政府の遺骨返還要請に対し、いまだ応じない。偽物であれば返還するのが常識だ。
2005128日、日本の内閣官房長官、細田博之は国会で、“本人と異なる二人の骨である”とする鑑定を「政府見解」として発表し、外務省も「朝鮮側備忘録について」と称する文書で、細田の政府見解に同調し、臆面もなく声高に「偽物」と主張した。
日本政府は、朝鮮側との約束を破り、朝鮮側の誠意と努力を踏みにじっただけでなく、死者を「生きている」として、偽りの捏造情報で遺族と国民を欺いた。日本政府は、一貫して、朝鮮政府の前では、拉致問題解決への協力に謝意を表しながら、国内外にはあらゆる手段を駆使して「拉致問題の未解決」を主張すると言う二枚舌外交を続けて来た。
朝鮮政府が誠意を持って調査し手渡した資料さえ、反共和国敵対関係を高める材料とするなど、人間精神の退廃と腐敗を極めた、人にして人にあらずを地で行く、けだものの姿を見る思いである。

13)拉致問題を国際的な「北孤立化政策」に利用する日本政府

20073月、ベトナム・ハノイで第4回六者会談の朝・日実務者グループ会議では、日本側は、「拉致被害者の死亡如何が全て確証されたとしても、拉致問題は解決されたと言えない。拉致被害者の全員を返すべきである。」と主張した。日本側は8人死亡の根拠と確証を自ら認めながら、「拉致問題」は解決していないと言う。
これは、死んだ人間も返せと言う事と、他にも誰か拉致被害者がいるはずだと言う、根拠もない荒唐無稽な主張である。つまり日本政府は、「拉致問題」を永遠に解決不可能な事件にとどめて、北敵対雰囲気を強め、東北アジアと朝鮮半島の軍事的緊張を醸成させ、政治的利用の手段として何時までも使い続ける魂胆だとすれば、これ程国民をばかにした話はない。
この時、(ハノイ日本大使館)に居合わせたという朝鮮外務省アジア局日本課のチョ・ビョンチョル(趙炳哲)研究員にこの事実を訊ねると、「六者会議は朝鮮半島の非核化を話し合う場所だ。<拉致問題>を語る所ではないと5分で席を立った。日本側は審議官と課長が朝鮮大使館まで頭を下げ謝罪した。」と話されたが、日本政府が「拉致問題の未解決」なる政治カードを、国内のみならず国際的にも、あらゆる機会に、使い続けている姿が見てとれるのだ。
日本政府の「拉致問題」の本質は、国内国外を問わず、米国と連動しながら、朝鮮を「人権侵害国家」として追い込み、その孤立化を図り、北の脅威を煽って朝鮮半島の軍事的緊張を高めるための政治的カードとしての利用にある。加えて、自分たちの歴史的罪過と反人倫的犯罪を隠ぺいし、過去の犯罪を免れて、賠償清算から少しでも逃れようとする魂胆にある。

14)「拉致問題」は解決済みと、認めざるを得なくなった日本政府

時事問題研究会が、今回の訪朝を通して各方面から確認した事実は、日本政府は、この間、朝鮮民主主義共和国の前では、「拉致問題は解決済み」とする朝鮮政府の立場に対し、反論する根拠は何も示すことはできなかった事、また朝鮮政府の協力の下で幾度となく重ねてきた調査の事実から、「拉致問題は解決済み」であることを認めざるを得ない状況に追い込まれていると言う点である。
我々が別項(「朝日関係における朝鮮外務省との会談記録」512日入力)において明らかにした<瀋陽合意>に於ける日本政府の態度は、その事を余すところなく暴露している。日本政府が、2008811日〜12日、この瀋陽での朝日関係改善交渉で取った行動の真実を、5月2日ピョンヤンで、朝鮮外務省が明らかにしてくれた事実から、それが明らかとなった。
日本側は、@“拉致問題の再調査委員会の立ちあげは、日朝親善のムード作りの為であって、拉致問題解決のためではない”A“再「調査委員会」の立ちあげを、朝鮮側からの発表として、行って頂きたい。またそれを外交ルートで公表すると同時に、制裁の一部解除をおこなう”と確言した。

即ち、日本側は、朝鮮側の前で、「拉致問題」は解決済みである事を認めざるを得ない事を白状する一方で、実態のない形だけの「調査委員会」を「朝鮮側から」発表させることで、「朝鮮側も、拉致問題が未解決であることを認めている」と言う国内向けの言質を取ろうと企んだのである。事実、日本外務省は、自らのHPで、「日朝実務者協議の概要」で次のように書いた。
@“北朝鮮側は、「拉致は解決済み」との従来の立場を変更して、拉致問題の解決の向けた具体的行動を取るための再調査を実施する事を約束。「再調査」は、「生存者を発見し帰国させる為の調査である必要がある。」旨を明確に指摘し、先方も同意した(原文のまま)”と言うのだ。
これは、見事な捏造と言うべきであるが、度が過ぎた欺瞞報告である。「立場を変更していない」のに「変更した」と言い、「約束していない事」を「約束した」と言い、亡くなった人間を連れ戻す事に朝鮮側が同意したと言う。まだしも、「再調査委員会を朝鮮側が発表すれば、制裁一部解除に応じる」と言う約束でも実行すればよいが、日本政府は、その「見返り約束」さえ踏みにじったのである。
外交交渉には、表と裏が付き物だが、表も裏も嘘だらけと言う日本外交と日本政府のこの態度は、天をも恐れぬ悪行であり、朝鮮民族の尊厳を蹂躙する罪行だ。日本国民は、小泉訪朝から今日まで日本政府とその外務省によって、朝鮮側に対し、かくのごとき不当な行為が繰り返されてきた事を見過ごしてはならない。
いずれにしろ、この瀋陽合意の真実からも明らかなように、日本政府は、「拉致問題が解決済み」であることを認めざるを得ない状況に追い込まれる一方で、国民を欺瞞し続ける事に苦労している事が手にとるように分るのだ。
文部科学省は、「拉致事件」を「人権問題」として取り上げた、横田めぐみを主人公にしたアニメ仕立てのDVDを全国の小中学校に人権授業の(副読資料として)教師ひとりひとりに配付し、教育現場で、客観的根拠を欠き、意図的に作為された情報を事実かの様に装い、日本の児童・生徒に、「北敵対感情」を醸成させる為の授業を指示している。強制ではないと言うが、ひそかに各地の教育委員会は、各教師にその使用状況をアンケート調査し、圧力を加えている。「反共和国敵視政策」と言う一政治党派の政策を、教育の場に持ち込むことは、教育への国家権力の介入を否定し教育の政治的中立を謳う憲法を踏みにじるものである。
日本政府がやるべき事は、日本の児童・生徒に、日本が過去、朝鮮民族に犯してきた特大の人権問題である「朝鮮人強制連行」「日本軍従軍慰安婦」東大震災時における朝鮮人6000人虐殺事件」などの客観的事実に裏付けられた教材をもって、歴史教育と人権教育をこそ行うべきではないのか。

15)破綻した虚構、明らかになる真実

日本政府が、いつまでも、虚構の上に築かれた根拠のない「拉致問題未解決」の政治的カードが使えると思ったら大間違いだ。嘘は決して、長持ちはしない。至る所から真実が水の様に染み出して、やがて大きな川となって流れ出るだろう。捏造の呪縛から自らを解き放ち、国民に真実を語らなければならない。国内世論に向かって真実を語る責任があるはずだ。40年の植民地支配と戦後の米国による朝鮮侵略戦争への加担の罪を免れようと思うな。40年の過去清算さえ何もせず、侵略国家として朝鮮に罪を犯してきた日本が、朝鮮民主主義共和国を「戦争を挑発する国」などと嘘をつく、どんな資格もない。
東海上のヨンピョン島は、米軍が勝手に線引きした北方限界線の朝鮮民主主義人民共和国側へ入り込んだ、本土からたった11マイル(15km)の距離だ。日本で例えれば淡路島から和歌山の距離だ。ここで、李と米軍が北に向かって砲撃の雨を降らせ、北核攻撃の演習を絶え間なく繰り返している事実を考えてみれば良い。どちらが「戦争を挑発する国」なのかと言うことを。
日本国民は、今こそ、民族排他主義をあおり、反共和国感情を醸成し、朝鮮民主主義人民共和国に対する謂れのない敵対意識を掻き立てる日本政府に抗議しなければならない。敵対でなく友好を、米韓に便乗した軍事的挑発でなく、平和的経済協力を、日米韓軍事同盟でなくピョンヤン宣言の速やかな履行を、日本政府に向かって要求し、速やかに日朝国交回復を実現する事を求めて行かなければならない。
                                                        (文責 柴野貞夫)


[資料] 日朝平壌宣言
 小泉純一郎日本国総理大臣と金正日朝鮮民主主義人民共和国国防委員長は、2002917日、平壌で出会い会談を行った。
 両首脳は、日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが、双方の基本利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大きく寄与するものとなるとの共通の認識を確認した。
1
.双方は、この宣言に示された精神及び基本原則に従い、国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注することとし、そのために200210月中に日朝国交正常化交渉を再開することとした。
 双方は、相互の信頼関係に基づき、国交正常化の実現に至る過程においても、日朝間に存在する諸問題に誠意をもって取り組む強い決意を表明した。
2
.日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した。
 双方は、日本側が朝鮮民主主義人民共和国側に対して、国交正常化の後、双方が適切と考える期間にわたり、無償資金協力、低金利の長期借款供与及び国際機関を通じた人道主義的支援等の経済協力を実施し、また、民間経済活動を支援する見地から国際協力銀行等による融資、信用供与等が実施されることが、この宣言の精神に合致するとの基本認識の下、国交正常化交渉において、経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議することとした。
 双方は、国交正常化を実現するにあたっては、1945815日以前に生じた事由に基づく両国及びその国民のすべての財産及び請求権を相互に放棄するとの基本原則に従い、国交正常化交渉においてこれを具体的に協議することとした。
 双方は、在日朝鮮人の地位に関する問題及び文化財の問題については、国交正常化交渉において誠実に協議することとした。
3
.双方は、国際法を遵守し、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認した。また、日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題については、朝鮮民主主義人民共和国側は、日朝が不正常な関係にある中で生じたこのような遺憾な問題が今後再び生じることがないよう適切な措置をとることを確認した。
4
.双方は、北東アジア地域の平和と安定を維持、強化するため、互いに協力していくことを確認した。
 双方は、この地域の関係各国の間に、相互の信頼に基づく協力関係が構築されることの重要性を確認するとともに、この地域の関係国間の関係が正常化されるにつれ、地域の信頼醸成を図るための枠組みを整備していくことが重要であるとの認識を一にした。
 双方は、朝鮮半島の核問題の包括的な解決のため、関連するすべての国際的合意を遵守することを確認した。また、双方は、核問題及びミサイル問題を含む安全保障上の諸問題に関し、関係諸国間の対話を促進し、問題解決を図ることの必要性を確認した。
 朝鮮民主主義人民共和国側は、この宣言の精神に従い、ミサイル発射のモラトリアムを2003年以降も更に延長していく意向を表明した。

 双方は、安全保障にかかわる問題について協議を行っていくこととした。

日本国
総理大臣
小泉 純一郎

 

朝鮮民主主義人民共和国
国防委員会 委員長
金 正日

2002917
平壌