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(民衆闘争報道 柴野貞夫時事問題研究会―連続論考A 20171月30日)


サード韓国配備と「日韓秘密軍事情報保護協定」締結は、朝鮮・中国・ロシアを狙う日・米の核戦争準備である


                                                  柴野貞夫時事問題研究会
[連続論考]

@ アジア版NATOとしての日韓米三角軍事同盟と東北アジア(前回)
A 日本の社会・経済の軍事化と、在日米軍の基地機能の強化(今回−その1)
B 中国の対・南朝鮮政策の軌道修正と、対・朝鮮政策の破綻
C ピョンヤン宣言と、ストックホルム合意を踏みにじってきた日本政府を糾弾する(いわゆる‘拉致問題’の真実)


      連続論考A
      日本の社会・経済の軍事化と、在日米軍の基地機能の強化その1


日韓米三国軍事同盟と中国に対抗する経済ブロック―TPP

米国新大統領・トランプは、就任早々、「環太平洋経済連携協定(TPP)」からの脱退を宣言する大統領令に署名した。
TPPを構成する12か国(米国、日本、マレイシア、ベトナム、シンガポール、ニュージランド、カナダ、メキシコ、チリ、ペルー)の中で、米国を含む11か国が未だ各国の議会での批准を受けていない中で、オバマと「日米同盟」の中で心中する約束をした安倍晋三だけは、唯一国会決議を強行採決までしてしまった。安倍はトランプの脱退表明を受けて、ほとんど茫然自失状態だ。
TPPは、201610月、各国で大筋合意を見た。TPPは、国境を越えて、利益を追求する、主として米国の多国籍企業の利益の為に、非関税障壁と関税を撤廃し、各国の関連する制度を同一化するものであるが、同時に、アジアにおいて巨大な経済力を背景に政治的主導権を確立しつつある中国を牽制・包囲する意図を持った、米国が主導する反中国経済ブロック体制である。
TPPは、自らが引き起こした中東の泥沼から逃げ出し、過去「太平洋国家」を謳歌した米国が、中国に奪われたアジアに対する経済的影響力を取り戻そうとする日本を巻き込んで、中国の経済的発展に対抗する経済圏を夢想したものである。
域内の関税を撤廃し、GDPで世界の約40%を占める12か国が、人・物・金を国境を越えて活発に動かし、貿易と投資、関連法制の整備を通して中国に対抗しようと言うのである。
米国(オバマ政権)は、この経済ブロックを、アジアにおける、米国主導の反中国、反朝鮮の軍事同盟の強化とその実際的な布陣と一体化したものとして規定した。アジアに対する軍事的覇権としての「集団的自衛権を行使できる日米軍事同盟」と、とりわけ朝鮮半島の核侵略戦争に備えた「日・米・韓三角軍事同盟」は、TPPとコインの裏表に他ならないと言う訳だ。


トランプはTPPから撤退しても<対米譲歩リスト>の実行を迫る

TPPの合意が、めどを迎えた時、米国通商代表のマイケル・フローマンは、“米国が得る経済効果は、年間1000億ドル(約118000億円)となる見込みである。5年間にわたる交渉による合意は、我が国の労働者、農家、企業に恩恵をもたらす”と述べた。
しかし、TPPは、日本の労働者・農民・漁民・働く民衆にとっては、日本の自動車産業をはじめとする大企業の利益のために、その生活と生きる権利を犠牲にするものに他ならなかった。
輸出に不況の活路を求める日本資本家階級の意を受けた安倍政権は、農林・水産業に対する外国産品の関税撤廃を、殆ど全品目で対米譲歩リストに含めた。
また、相手国の国家が持つ機能を奪って株式会社化し、民営化を図り、国家に国民に対する義務を放棄させて、ひたすら私的利益を追求する多国籍企業や投資家に、日本の市場を晒す機会を提供しようと企んだ。
「混合医療の解禁」と、それと連動する「米国保険業界の市場参入」と、薬と医療機器の価格決定の権限を持つ国家の審議機関である「中医協」に、米国企業集団の参加を認めるとなれば、日本の皆保険を崩壊させるものである。
トランプの言う、「オバマ・ケアの見直し」が何を意味するのかは現段階では不明であるが、「オバマ・ケア」は、日本の皆保険とは似ても似つかない代物である。トランプは、これをどの様に「見直そう」としているのか?は、現段階の情報では分からない。
日本の「健康保険制度」は、保険証を提示すれば、何処の医療機関でも受診でき、ほぼあらゆる疾病に年齢によって、1~3割の負担で済み、年収や、身体的条件による配慮が伴うが、「オバマ・ケア」は、患者の健康状態によって掛け金が変動する民間の保険に強制加入させられる上、未加入者は罰金を科せられ、使用する薬は公的組織が決定するのではなく、製薬会社が勝手にきめるので、患者はとてつもない金額を請求されることになっている。医療の公的性格と、、国民の命に責任を持たねばならない国家の義務を放棄し、最大限利潤を追求する資本の論理に道を譲るものに他ならない。安倍政権は、TPPの交渉経過をすべて明らかにしてこなかったのは、これらの事実を国民の目から隠蔽しようとしたからだ。

先走ったTPP国会強行採決が安倍を追い詰める

しかし、トランプは、TPPが、米国の主要輸出品目である農業・酪農製品の関税が撤廃される代わりに、一方で、労働力の自由な移動(ビザ無しで自由に就労可能な移民の受け入れ)を認める事が、自国労働者の雇用を脅かし、更には、機械・製造業に対する米国の関税撤廃が、日本からの輸入車によって、自国の自動車産業を危機に晒すものだと主張した。
オバマの主張(TPP)とトランプの主張(TPPからの撤退)には、万里の長城ほどの隔たりもない。TPPは、GDPの比較から考えれば、米国と日本の二国間の通商協定と考えてもよいからだ。トランプは、日本との協議をはじめ、二国間協定をおし進めると主張している。
トランプは、安倍が、TPPと関連する法を強行採決した事によって、日本議会で承認を受けた米国に対する「譲歩リスト」を、既定のものとして日本との二国間交渉を推し進めるであろう。
他方、米国が日本に譲歩した自動車・機械製造の関税は、新たな交渉対象として見直しを迫る事は目に見えている。トランプの「米国第一」主義は、安倍を追い詰めるに違いない。

トランプの主張はオバマの「アジア回帰」戦略そのもの

しかし、トランプは、オバマのTPPからの離脱を宣言しても、その簡単な政策声明(まだ明確な政策は出ていない)で、「軍を立て直し、海・空軍事力を拡充し、軍事的優勢を維持し、先進的ミサイル防衛システムを開発する」として、オバマの安保政策を強力に推進することも謳っている。しかもトランプの「米国第一主義」は、それら安保の資源を、他国の負担で乗り切る事を公然と主張する。
トランプは、極東アジアにおける、朝・中・ロを標的とする<高高度ミサイル防衛システム(MD)>を、配備先の各国の負担で賄おうと主張していたオバマと、何も変わるところはない。他国の負担とは、即ち各国の支配者がそれぞれの労働者・民衆の頭上に打ち下ろす過酷な犠牲の転嫁の事である。

レーガンに同調した中曽根を見習って二番煎じを狙う安倍晋三

1980年代冷戦期、米国に対する貿易黒字は、自動車産業を中心に巻き起こった日米の深刻な対立を呼び起こしたが、ロナルド・レーガン(1981年〜1989年)と中曽根康弘の妥協点は、米国の兵器を大量に買い込むことだった。トランプの脳裏には、そのことも計算に入っているのかも知れない。日本に対し、既に世界一高額の米軍駐留経費の更なる増額と、自衛隊の海外派兵の拡大と広範な軍事作戦への参加を要求してくるに違いない。
1970年代後半は、米帝国主義による、ベトナム・インドシナにおける民族解放闘争に対する、介入と侵略戦争の屈辱的敗北が、米国主導の戦後資本主義体制の新たな動揺を生み出した。米国は、この事態への対応として、ソ連との軍事対決を、再び世界戦略の基軸に置き始めた。1979年の米・中国交(前年には、日中国交回復)も、デタントの始まりなどではなく、中ソ対立を利用する事で自らの危機を乗り切ろうとする米国の狙いから来たものである。
レーガンは、大軍拡路線を取り、ソ連との軍事的対決、国際的軍事緊張の政策的創出、それによる武器輸出の拡大を図り、日本に対しても、<ソ連脅威論>と日米<貿易摩擦の解消要求>を梃子に、中曽根政権に米国の武器輸入要求を突きつけた。
ここに、日本の政治と経済の軍事化がはじまった。(それは国民大衆へ集中的に転化されて行く。「中曽根構造改革」と言う、日本資本家階級の労働者・民衆への犠牲の転嫁としての攻撃は、米国の武器購入要求への対応としての軍事費の増大が、増税・社会保障の削減となって示され、国内重工業部門の急速な軍事化は、この時一挙に進むこととなる。
世界戦略の基軸に、ソ連との軍事対決を置いたアメリカ帝国主義は、自国5万の兵員とアジア最大の軍事基地を有する日本と、経済摩擦による深刻な対立があったとしても、対ソ連との軍拡路線によって共同歩調を取ることができたのである。

歴史から何も学ばない日米の対中敵視キャンペーンと、対朝鮮敵視政策

190年代の<インドシナ・ベトナムの屈辱的敗北>に対して、ソ連との軍事対決を、再び世界戦略の基軸に据えたが、同様に、2000年〜2015年代の<中東における敗北>で、オバマは<アジア回帰による朝・中対決路線>を世界戦略の基軸に据えたのである。レーガンの対ソ連軍拡路線から35年経っても、性懲りもなく繰り返される愚行を、我々は目の前にしている。
1991年のソ連解体後、朝鮮は一貫して、持続的に、朝鮮半島の休戦体制を、平和体制に転換し、米国と日本との国交正常化を求めて新たな冷戦状態の解体を追求してきた。しかし米国は、「冷戦状態」の持続に、自らが生き延びる藁を掴み取ろうとして来たのだ。
今日、尖閣諸島をめぐって意図的に作り出された対中国敵視キャンペーンと、体制崩壊を狙い核の常時的威嚇と言う国際法を踏みにじって展開してきた米国と日本による反朝鮮敵視政策は、その本質において、歴史から何も学ぶことが出来ない、哀れな帝国主義者どもの腐りきった脳みそを白日の下に晒している。
自衛的に核で防衛せざるを得なかった朝鮮に対する東北アジアにおける米国と日本が企む、核戦争の危機は、おさまりそうにない。
そして、トランプ登場によって、オバマから加速されてきた戦争が出来る軍国主義日本の再登場は、軍事費の増大を、労働者・民衆に対する過酷な犠牲の転嫁によって、社会保障制度の崩壊と大衆的貧困の世の中を限りなく準備するであろうことを予見せざるを得ない。日本の労働者階級と民衆の広範な戦いを強化して行かなければならない。(続く)