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(論考/シンガポール朝米首脳会談で、何が合意されたか<その1> 2018620日)


     [論考@] シンガポール朝米首脳会談で、何が合意されたか<その1>
    朝米首脳会談は、敵対と緊張の関係を和解と対話の関係に転換した

                                         柴野貞夫時事問題研究会

70余年間、朝鮮半島を覆いつくしてきた核戦争の火種が、今初めて、終わりを告げようとしている。朝・米両国の首脳が、直接会い、敵対と緊張の関係を、和解と対話の関係に転換させる為の道筋を、互いに文書で合意した事は、朝米関係の歴史において初めての事である。朝鮮半島の恒久的な平和体制の構築に向かう力強い第一歩として、画期的である。そして何よりも、朝米の和解と対話は、朝鮮民族の悲劇的な分断の原因と固定化の要因となった、朝鮮半島と東北アジアの冷戦構造を解体し、分裂の歴史に終止符を打ち、南北統一の悲願に向けて、大きく前進する力を与えるものである。
朝米両国首脳は、その共同宣言において、70有余年に亘る朝鮮半島での、敵対関係に終止符を打つ、三つの原則と一つの確認を共有した。
@  平和と繁栄を願う両国人民の念願に基づいて新たな朝米関係を樹立していく
A  朝鮮半島で恒久的で強固な平和体制を構築するために共に努力する。
B 朝鮮民主主義人民共和国は2018年4月27日に採択された板門店宣言を再確認し、朝鮮半島の完全な非核化に向けて努力することを確約した。
C 戦争捕虜および行方不明者の遺骨発掘を行い、すでに発掘確認された遺骨を即時送還することを確約した

敵対関係を、和解と対話による平和体制の構築へ確実な一歩を踏み出した

「朝鮮半島の非核化」を巡って、「朝米協議」の結果として取り交わされた1994年の「朝米ジュネーブ合意」と、2000年の「朝米コミユニケ」が、常に、米国によって反古にされてきた理由は、核保有に向かう「核開発途上国」である朝鮮は、米国の国家の安保を揺るがすほどの脅威と考えなかったからである。米国は、過去六者協議で繰り返してきた様に、不正な欺瞞的交渉で「会話」の「ふり」をしながら、「制裁」と「核による恫喝」で、その一方的な「非核化」を強制し、核発電とロケット技術の開発まで制約を加え、その体制崩壊を狙うと言う、敵対政策を先鋭化させた。
20171129日、朝鮮は、新型大陸間弾道ミサイル「火星15号」の試験発射に成功した。それに先立つ93日、第6回目の核実験を成功させたが、それが「大陸間弾道ミサイル(ICBM)装着用の水素爆弾の実験」であると指摘していた。「火星15号」型弾道ミサイル試験発射の成功は、その(ICBM装着用の水素爆弾)運搬手段の成功であり、<米帝国主義に対する自衛的軍事的均衡>を確立した事を国際社会は確認した。
この<米国に対する自衛的軍事的均衡の確立>こそ、対北敵対政策に固執し、「協議」に応ずる前提として、常に「北の核放棄」を掲げ、対朝協議を無視して来た米国が、何故、朝鮮との無条件の協議を求めて来たかの根本的理由である。米国は、朝鮮が、核を保有しても、米大陸に到達できる運搬手段を持たない限り、朝鮮を直接的脅威とは受け止めず、朝鮮を屈服させる前提条件を飲ませる事でしか、<朝米協議>に応じないと言う姿勢を繰り返して来た。
今トランプは、核を装着した大陸弾道ミサイルで武装した、敵対する核保有国家からの脅威を回避する為には何をなすべきかを自問しなければならなくなった。トランプは、運搬手段を持った核保有国家同士の「核軍縮」と、体制間の「平和共存」に向けての協議しか、道は残されていなと認識したのである。
朝鮮戦争から今日まで、70有余年の朝鮮半島の歴史は、米国による朝鮮に対する核恫喝によって、半永久的とも考えられる戦争の危機に晒された歴史だった。即ち、朝鮮半島における<核問題>とは、米国によって引き起こされ、まぎれもなく米国が真の「主犯」であったと言う歴史的真実を確認しなければならない。朝鮮こそは、その深刻な被害者だと言う真実を、出発点としなければならない。
核恫喝による民族の抹殺を断固として拒否し、自衛的核武装で国家の主権を守ろうとしたのが朝鮮である。米国は、朝鮮が、核による抑止レベルのみならず、核の運搬能力を米国全土に拡大する力を確立したことによって、無条件の協議の場に引きずり出されたと言うべきであろう。

CVID>は、両首脳によって否定された

協議に入る間際に、トランプ政権内部の、朝米間の力関係を見誤った一部ネオコングループが、たかだか実験段階の核途上国であったリビアを壊滅させた例を挙げて、朝鮮に対し、「CVID」(完全且つ検証可能で、不可逆的な非核化)に基づく朝鮮の<武装解除>を要求したが、トランプは激怒し、彼らを朝米交渉から外したと伝えられる。
核とその運搬手段としてのミサイルを保有する国家同士が、一方が他方を屈服させる事を条件にした「協議」は、「協議」ではなく、どちらか一方を「降伏」させる為の交渉であって、必ず破綻を免れない事は、「六者協議」の欺瞞の歴史が証明してきた。
今回の首脳会談は、紆余曲折を経ながらも、米国が、核保有国家としての朝鮮をあるがままに受け入れ、如何なる前提条件なしに、朝鮮半島の非核化(朝鮮の非核化ではない)と、米国の朝鮮に対する敵対関係の解消を明文化した点で、朝鮮半島のみならず、アジアと世界の平和に対する計り知れない希望を生み出した。
我々は、今回両国が合意した「共同声明」と、それに対する朝鮮政府の発表文、およびトランプの長時間の内外記者団との会見内容から、朝・米の新しい関係の構築を分析して行く事にする。
(続く)


<関連サイト>


[論考@]朝米首脳会談における米国の義務は、朝米関係正常化を実現することだ(柴野貞夫時事問題研究会 2018年6月10日)