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 韓国民衆言論 プレシアン 世界ニュース 2015年9月4日付
http://www.pressian.com/news/article.html?no=129453


       日本の安倍政府に怒った12万のデモ隊・・・どうしてなのか

日本国憲法9条は、アジアの民衆と国家に対する「不戦の約束」ではなかったのか 


                              イ・ギョンジュ インハ(仁荷)大學・法学専門大学院教授


<要約>

 「武力行使事態法」は、朝鮮有事を理由に、朝鮮を先制攻撃し、戦争  を仕掛ける為の根拠法にするつもりだ。朝鮮半島を人質に取っているのだ。
 「戦争法規」によって、「北の脅威」を勝手に解釈し、軍事大国に進む日本こそ、アジアの民衆にとって平和の脅威だ。
安倍と菅の発言は、アジアの民衆と国家に対する厚顔・無恥・侮辱である。
日本の戦争法は、(韓国軍のベトナム派兵を生み出した)‘韓・米相互防衛条約’と同じだ。
 日本国憲法9条は、アジアの民衆と国家に対する「不戦の約束」ではなかったのか。 

‘戦争法案’で、これまでの約束を反故にした日本国家

去る8月30日、日本国会議事堂が位置する霞が関に、12万名の怒った群衆が集まった。彼らは安全保障関連法(自衛隊法改正案、重要影響事態法、武力行使事態法等の10件の法案と、平和維持活動法)が、その名前と絢爛な修辞にも拘らず、本質は平和の仮面をかぶった戦争法であり、日本平和憲法第9条を破壊するものだと主張した。
今回の示威に対しては、日本政府もびくついて緊張する様子だ。元来、十余年間の平和憲法擁護関連の示威が、労働組合や年配の活動家主導だったものと異なり、今回の示威は、学生達や若い母親達によって受け?がっているからだ。
今回の戦争法案が、場合によっては徴兵制につながると言う不安感は、子供を持つ母親達を示威の現場に呼び出しており,長い間、示威(デモ)とは関係を断って過ごした大学生達は、シールズ(SEALDs: Students Emergency Action for Liberal Democracy)と言う無定形の組織で町に溢れ出ている。
それだけではない。去る83日には、高校生を含む5000名が渋谷などで、制服を着たまま示威を繰り広げた。内情はともかく、自民党出身の保守的な野党政治家・小沢一郎まで、国会議事堂包囲デモに参加したと言えば、その熱気が十分斟酌できる。

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8月30日、日本・東京に位置する国会議事堂前で、安保法制制定反対示威が開かれた(写真―AP=ヨンハップニュース

日本政府は、日本憲法の非武装平和主義にも拘わらず、少しずつ憲法の境界を蚕食してきた

 自衛隊を設置する時は、自衛隊は、憲法9条が禁止する軍事力ではなく、必要最小限の実力だと言い、
 1960年、米国と安保条約を改定して、‘日本は個別的自衛権を行使する事は出来るが、集団的自衛権を行使する事は出来ない。’と言った。
 1972年には、政府の公式解釈としてこれを確認するなど、集団的自衛権を容認しないと約束しながら瞬間瞬間の危機を免れて来た。無論それさえも,不戦を誓って軍事力を放棄した日本国憲法の非武装平和主義とは、距離が遠い詭弁だった。

‘韓・米相互防衛条約’の様に、自国(日本)に対する直接的な武力攻撃がない場合でも、自衛隊が出動することが出来る日本の戦争法

危機を回避する詭弁は、今日、足枷として作用している。米・日軍事同盟を双務的なものとして強化する為には、‘韓・米相互防衛条約’(訳注―下記参照)の様に、自国(日本)に対する直接的な武力攻撃がない場合でも、自衛隊が出動することが出来る様に、自衛隊法等を改定しなければならないので、先の詭弁が足枷として作用しているのだ。
しかし、例え詭弁であったとしても、国会で多数決だと言う名分で、約束を古い履物の様に投げ捨てようとする政府に,誰だって怒らずにはおれないだろう。
この様な憤怒は、笑えないエピソードを生んだ。平素自衛隊が、合憲だと考えていた東京大教授出身の憲法教授がいた。そこで執権自民党は、彼が集団的自衛権も擁護してくれるものと考え、衆議院安保関連法制特委に参考人として推薦した。しかし彼は、やはり集団的自衛権は違憲だと判断した。
野党の持ち分の憲法学者達を含めて、3人すべて、安保関連法制が違憲だと明らかにした事は、反対世論が瞬時に高くなる転機となった。


日本は、1990年代から‘国際貢献’と言う美名で自衛隊の海外進出の道を開いてきた

1992年、日本政府は‘武力行使を目的としない平和維持活動に対する自衛隊の参加は、憲法違反ではない’と言う論理で、自衛隊の海外派兵の道を開いた。
これは、武力行使を目的としようがしまいが、‘海外に自衛隊を派兵する事は違憲’だと言う従来の見解を変更したものだった。
1999年には、日本の平和と安全に重大な影響を与える周辺事態にも、自衛隊の海外派兵が可能だと言う‘PKO(平和維持軍)協力法’を作った。これもまた、日本に対する武力攻撃に限り、米国と同盟し自衛権を行使することが出来るだけだと言う見解を変更したものだった。


‘重要影響事態法’−<周辺事態>を極東周辺から<世界>に拡大

今回は、周辺事態法を更に拡張し、日本の周辺事態が無くても,例え中東の事態でも、それが‘日本に重要な影響がある場合’には、米軍などに対する後方支援をすることが出来ると言うものに内容を変え、名前も、‘重要影響事態法’と呼んだ。

‘武力行使事態法’−北韓が日本を攻撃する手段があると言う事だけで、北韓を先制攻撃する事が出来る危険極まる法だ

‘武力行使事態法’では、日本に向かった武力攻撃に対する対応を越え、日本と密接な関連がある国に攻撃が発生する場合にも、集団的自衛権を行使する事が出来る様にした。朝鮮半島を人質にしているのだ。
自らの約束さえ破る日本政府の態度は、日本国民だけではなく、アジア各国の憤怒と懸念を買っている。‘武力行使事態法’で語る存立危機事態は、大部分朝鮮半島有事時を想定している。それだけでなく、北韓のミサイルを警戒している米軍艦が、攻撃を受ける明白な脅威がある場合、日本に対する直接攻撃が無くとも自衛隊が出撃できる様にした。
米・日・ミサイル防衛システムの一角が崩れれば、日本が直接攻撃を受けるためだと言うのだ。潜水艇に乗った工作員が東京など首都圏で、大規模テロを引き起こす可能性もあるので、これを存立危機事態だと判断しようと言うのだ。
結局、北韓が日本を攻撃する手段があると言う事だけで、北韓を先制攻撃する事が出来る<根拠法>が準備される計算だ。


菅義偉官房長官と安倍首相の厚顔無恥発言米国の意図に便乗して、軍事大国化の道を歩む日本

従って、韓国、米国、日本、中国などの知識人100余名は、去る8月13日ソウルで国際会議を開き、日本の今回の安保関連法制が、むしろ東アジアの安保を阻害すると口をそろえた。そして、その結果を‘東アジア平和宣言’の形態で発表したが、主たる内容は、日本の平和憲法第9条を守ることが、東アジア平和の根幹であるというものだ。
そうであっても、菅義偉官房長官は、12万名の怒った示威隊に向かって、“何か大きな誤解が生まれたようで、遺憾だ”と言った。特に、“平和安全法案であるのに、一部野党やマスメディアが戦争法だと言ったり、徴兵制復活を宣伝しており”問題だと言った。
去る7月16日、戦争関連法案衆議院通過後、国民の反発をぶっつけられた安倍が、“説明が不足した様だ”と言った事と違うところがない厚顔無恥の発言だ。この様な厚顔無恥が、朝鮮半島を始めとしたアジアを対象としている点で、今後がさらに問題だ。南・北韓―交流と協力の紆余曲折を歩んでいる朝鮮半島を口実にして、脅威を自分の都合の良い様に解釈し、米国の意図に便乗する軍事大国化の道を歩む可能性が大きくなっているのだ。

日本国憲法第9条は、アジアの民衆と国家に対し、二度と戦争をしないという不戦の約束だ

日本国憲法第9条は、事実、アジアの民衆と国家に対し、二度と戦争をしないという不戦の約束だ。振り返って見れば、敗戦後、徹底して、過去清算が遂げられなかったにも拘らず、日本がアジア外交と経済舞台で復権する事が出来たのは、日本国憲法9条の役割が極めて大きい。日本政府は、アジア民衆に対する約束を破ってしまうのか。
今後2週間(訳注―この記事は、9月4日に執筆されている)が、分水嶺となりそうだ。参議院に法案が送付されてから、60日が経って可決しない場合、9月14日以後には衆議院の3分の2に該当する絶対多数を占めている自民党と公明党に依って、強行妥結される可能性が高い。
この状況で、我々は対岸の火事見物をするのか。韓国政府はどうして沈黙するのか。
                                    訳 柴野貞夫 2015916

<本文訳注>

韓国軍の、ベトナム戦争における「集団的自衛権の行使」は、安倍政権の「戦争法規」がもたらす結末を予見するものである

日本における戦争法案は、「他国に対する武力攻撃であっても、国の存立を脅かし、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」と言う要件があると国家が恣意的に判断した場合、地球上あらゆる場所に、自衛隊を送り込み、戦争を仕掛ける事を容認するものである。この様な、「集団的自衛権」を行使した場合の、最も残酷で卑近な事例が、隣国・韓国の「米国が仕掛けたベトナム戦争への参戦」である。
朴正煕軍事政権下の韓国は、1965年7月12日、議会に「南ヴェトナムにおける共産主義の脅威が、我が国の安全保障にも直接大きな影響を与えている」として、米国のヴェトナム侵略戦争に加担し、戦闘部隊の派兵を決定した。
米国によるベトナム戦争とは、1964年8月、北ベトナム沖のトンキン湾で、北ベトナム軍の哨戒艇が一方的に、アメリカ海軍・駆逐艦に、2発の魚雷を発射したとするでっち上げによる、「トンキン湾事件」と呼ばれるものを根拠として、米国が北爆を開始する事から始まった。
この事件を根拠にアメリカ合衆国政府は本格的にベトナム戦争に介入、北爆を開始した。米国議会は、上院で88対2、下院で416対0で、体制翼賛的に、大統領支持を決議した。
戦後、米国が引き起こした全ての戦争は、でっち上げと捏造を「根拠」にして来た。7年後の1971年、『ニューヨーク・タイムズ』がトンキン湾事件がアメリカ合衆国が仕組んだ物だったことを暴露した。そのような国家との「集団的自衛権」の行使が、どれほど残酷なものとなるかをベトナムにおける事例が示している。

1954年11月17日発効 した米韓相互防衛条約(アメリカ合衆国と大韓民国との間の相互防衛条約)は、次の様に規定している。
第二条
締約国は、いずれか一方の締約国の政治的独立又は安全が外部からの武力攻撃によつて脅かされているといずれか一方の締約国が認めたときはいつでも協議する。締約国は、この条約を実施しその目的を達成するため、単独に及び共同して、自助及び相互援助により、武力攻撃を阻止するための適当な手段を維持し発展させ、並びに協議と合意とによる適当な措置を執るものとする。
第三条
各締約国は、現在それぞれの行政的管理の下にある領域又はいずれか一方の締約国が他方の締約国の行政的管理の下に適法に置かれることになつたものと今後認める領域における、いずれかの締約国に対する太平洋地域における武力攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
1965年 8月13日韓国国会本会議で、キム・ソンウン国防相は、韓国軍の派兵の根拠は、「米韓相互防衛条約」(第二条、第三条)によって、相手国に対する攻撃を自国への攻撃とみなす「集団的防衛」に基づく武力の行使だと言明している。
安倍政権の11件の戦争法規案は、「米韓相互防衛条約」以上に、米国とその同盟国との、集団的自衛権の行使を明確に規定するものである。
韓国のヴェトナム派兵は、米国のウソとねつ造によって仕組まれた侵略戦争に加担し、自国兵士・4700人の戦死者を出すと同時に、自らが生み出した夥しい戦争犯罪によって血塗られている。
常時5万人の兵士を送り込み、延べ31万人の韓国兵士が、1965年〜1973年の9年間に、ベトナムの地で行なったことは、ベトナムの民族独立の為に戦った41000名のベトナム兵士たちの殺害だけでなく、推定9000名に上る民間人や婦女子の残酷な処刑と殺害、村落の破壊が実行された。(「ハンギョレ21」1999年9月2日付第273号)
しかし、未だ韓国軍によるベトナムでの戦争犯罪の実態は、韓国政府によって隠蔽され、十分な究明がされていない。しかし、一方で、日本の国家主義者や右翼国粋主義者が、日本のアジアにおける戦争犯罪を正当化し隠蔽する為に、韓国を批判するいささかの資格も無い事は自明である。これを批判し、糾弾する資格があるのは、両国の国家権力と戦う民衆だけである。
米国が引き起こしたベトナム戦争に対する、韓国の「集団的自衛権の行使」の事例は、安倍政権の「戦争法規」によって必然的に招来する残酷な戦争の結末を予見させるものである。
                                         柴野貞夫時事問題研究会