柴野貞夫時事問題研究会 本文へジャンプ


「分断朝鮮」を連載するにあたって


はじめに


① “韓流”と北朝鮮の“核武装”の向こうにあるものとは。


・ “韓流スター”に熱を上げていた日本の中年女性たちや、「人道と人権」の為に北朝鮮への「制裁」を叫ぶ“拉致被害者”の家族の方々、そして北朝鮮のミサイル発射と核武装に対して、不気味で恐ろしいと言う人々に対して一概に批判するつもりはない。しかし、人は物事をそれに関係する沢山の事実の中で正しい判断に近づく事が出来るのである。

権力をもつ者は、常に世論を動かす最も効果的な方法は「都合の良い事実を選択し、配列する事にある。」(E.H.カー・歴史とは何か)都合の良い「本当の事実」を国家権力の組織と迎合するメディアを動員して流せば、「都合の悪い本当の事実」は隠す事も出来ると言う訳だ。そしてそれだけにとどまらず、「ウソの事実」まで作り上げる。


・ソウルにある南大門には買い物をする日本人が沢山歩いているが、その頭上に日本人に分かるように漢字混じりの横断幕が掛かっている。「民族の自尊心・独島」。しかし、日本人で目にとめる人はほとんどいない。韓流スターや買い物も良いが、その向こう側にある国の歴史や、もう一つの現実にも目を向けて欲しい。

朝鮮人は、自尊心を大事にする民族である。日帝36年の植民地支配は、民族の自尊心をその足で踏みにじって来た歴史と言う事が出来る。しかし、それは1945年で終わったわけではない。日本は金大中の勝利まで52年間にわたる李・朴・全等の軍事独裁を支え、今も尚、北朝鮮の「社会主義」体制を核で武装した米国との軍事同盟で威嚇しているのである。


② 日帝と天皇制軍国主義政府による“朝鮮人強制連行”は“未解決”の問題だ! 未だに、遺骨も名簿も放置されたままである。


・ “拉致被害者”の家族の方々は自らの子を思う気持ちと同時に、先の大戦で100万人以上の朝鮮人が日本の国内労働力として強制的に連行されて来た事実にも思いを馳せて欲しい。1920年代、日本帝国主義天皇国家による産米増殖計画の中で、高利に追われ土地を奪われ、やむをえず流民となって祖国を後にし、日本へ来た朝鮮人は総計100万人とも言われている。更に1939年の「国民徴用令」により労働力として強制連行された人々は、1945年には100万人に達していた。鉱山、飛行場、軍需工場、鉄道建設で過酷な奴隷的労働で数千人の死者を出したが、その遺骨は祖国に帰ることもなく各地で処分され、山や野に埋められたままである。日本政府も地方自治体も企業も、その名簿は処分したとして非協力的である。現在、それぞれの地元民やボランティアによって、自主的な遺骨発掘調査が続けられている。「拉致」家族が、国家の政策にまで口を出し、「制裁と圧力」を要求するなら、日本政府が行ってきたこのような非人道的行為と朝鮮人強制連行労働者の遺骨発掘作業と名簿調査提出にも、政府自ら主導的役割を行うべきだと要求すべきではないだろうか。特に、その様な行動こそがお互いの痛みを分かち合い、「拉致問題」の現実的な解決へとつながって行くと思うのだがどうであろう。(「拉致」は、1970年代、韓国が未だファッショ的軍事独裁体制の下で民衆が抑圧されていた当時の北による対南工作の一環であったが、特殊な時期の不幸な事件である。)


③ 核保有国の軍縮義務を守らず、“核先制攻撃”と“新型核兵器開発を進める米国に、北朝鮮の“核武装”を非難する道理はない。


・1968年、NPT(核拡散防止条約)は、米、英、中、仏、露の5カ国だけに核保有を認  めた不平等条約である。2000年、非保有国は、保有国に対し「核兵器を廃絶する明確 な軍縮義務」の履行を求め約束させた。2006年5月、その履行の確認の為の国際会  議が持たれたが、アメリカはその履行どころか米国大使サンダース氏は「NPTは核保有国の核戦略の近代化は禁止していないと詭弁をろうし、自国の小型核・地中貫通核 弾頭の開発及び保有核弾頭の更新を主張し、保有国の中で異常なほどの核廃絶の拒否を行ったのである。そ  ればかりか、核による先制攻撃(2001年、国防総省が発表したNPR・核体制見直し論) がありうると、非核保有国を常に攻撃目標に据えながら発言した。また2005年5月に  は「統合核兵器作成ドクトリン」において核兵器の先制使用を公言している。


・イラク戦争開戦前夜、ニジェールの国家文書まで偽造し、それをイラクの核保有疑惑に結び付け、先制的に侵略戦争を実行した米国が彼らが言う「ならず者国家」に核による先制攻撃がありうると公言する事こそ許されぬ恫喝である。しかもこの米国は、極東において在韓・在日米軍としてその基地と船の中に核を保有する事は公然の秘密である。北朝鮮ならずとも「核先制攻撃論」で武装し、横暴を重ねる米軍によって取り囲まれては「核武装」による「核抑止」を考えざるを得ないのが正常であろう。我々は、北朝鮮の核を批判する前になすべき事は、韓国と日本における核武装した米軍基地とそこを自由に出入りする爆撃機の行動の存在を容認している我々にこそ、問題があると自覚すべきなのである。北朝鮮に牙を向ける米国に基地を提供し、核に守られながら自らも軍事同盟を結び「先制攻撃も視野にある」(麻生外務大臣発言)と北朝鮮の核を怖威と語るのは見え透いたレトリックである。


 ④ 日本全土で核を搭載する艦船と爆撃機で武装する米軍基地は極東アジアの平和に対する最大の敵である。


・朝鮮戦争(1950年~1953年)当時、中国と北朝鮮を標的として、日本全国に展開する米軍基地をアメリカは「極東の不沈空母」と呼んだ。現在、日本の米軍基地は(自衛隊との共同使用を含めて)。135ヶ所に及び、総面積は東京23区の1.6倍である。米兵の数は25年前と比べて2倍に増えている(5万8千人)。ヨーロッパでは、15年前が31万人、現在ではその約3分の1である11万7千人に減少している。国別で見ると、日本がイラクを除いて世界に展開している米軍(米兵数)では最も多くなっている。しかも、日本駐留米軍の性格は横須賀(空母機動部隊)、普天間・岩国(海兵遠征軍)、三沢・嘉手納(航空宇宙遠征軍)と全て海外派兵が中心であり、それらは現在イラク戦争の中心部隊である。日本全土がこのような米軍の世界への戦略基地となっているのである。日本はと言えば、北朝鮮に届く射程を持つミサイルを装着するイージス艦を保有し、核武装した米軍の各戦略部隊を全国に擁して北朝鮮を威嚇しながら、北朝鮮の核とミサイルを批判するのは筋違いであろう。我々、日本の「軍事列島」の状況こそ、朝鮮半島を中心とする極東の平和にとって最も大きな阻害要因ではないのか。朝鮮半島の軍事的・政治的な緊張を断えず引き起こす最大の原因は、このような侵略的・軍事的プレゼンスであり、自らの政治的・経済的目的を達成しようと狙っているアメリカ帝国主義と、それと同盟を結び、「先制攻撃」さえ口にする日本資本主義国家にある。


⑤ 戦後52年間、韓国の軍事政権を支え、今尚、拉致を理由として北朝鮮に対する戦後処理を先延ばしする日本政府に分断朝鮮に対する責任はないのか!!


・朝鮮半島は1945年の日帝植民地支配の崩壊から、60年余りが経つにも関わらず、一つの民族が南北に分断されたままである。1950年~1953年の「朝鮮戦争」は世界に例を見ぬ同一民族同士の戦争であり、400万人の人々の生命が失われる悲劇となった。52年にわたる韓国のファッショ的軍事独裁国家が終わりを告げ、金大中政権が登場し、北朝鮮との「民族和解」の第一歩が始まった。しかし、それにも関わらず、「分断朝鮮」は、今も極東アジアの政治的・軍事的な緊張を生む要因となっている。この朝鮮半島の分断と不安定化の主たる原因を「核」で武装した北朝鮮の存在自体にあると国際社会と世論を煽る人々がいる。果たしてそうだろうか。36年にわたる朝鮮半島の植民地経営による経済的・社会的収奪に対する一切の戦後処理を先延ばしにし、北朝鮮を「ならず者国家」と恫喝し、核の先制攻撃を公言する米軍の基地と戦艦を受け入れながら「北の脅威」を憲法改正と軍事体制強化によって民衆支配の強化に利用しようとする日本の資本主義階級に責任はないのか。分断は彼らによっても固定化されて来たのではないだろうか。


・植民地宗主国としての日本の戦後60年を検証する必要がある。「分断朝鮮」の全般的な歴史的検証をする事によって、極東の平和の鍵を見出す事が出来るであろう。我々の連載「分断朝鮮を考える」の狙いはここにある。