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京都大学原子炉実験所原子力安全研究グループ、京都勉強会/2003年6月14日論考より転載)

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/index.html

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/kouen/kouen.html

 

[朝鮮の核問題]

京都大学・原子炉実験所 小出 裕章

 

 http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7e/1c/6c602fd6a3598cb6bdc74eaecdd8eac2.jpg

写真―京都大学・原子炉実験所 小出 裕章

 


<解説>

 昨年(2012年)12月、朝鮮民主主義人民共和国の人工衛星≪光明星-3≫号2号機の打ち上げに対し、核超大国で構成される安保理は、国連決議2087号によって制裁を加えた。この小出裕章助教の論考は、2003年、ブッシュがアフガニスタン―イラク侵略戦争を実行に移し、同時に朝米合意を破り捨て、朝鮮民主主義人民共和国への核戦争を画策していた時期にかかれた。「核とミサイル問題」に対する、核超大国の横暴と、それに誤導された「世論」への覚醒と警鐘の文(ふみ)として、今も、反帝・反原発・反差別・反権力の戦列の、戦う民衆を鼓舞する論文である。

米国は、国連を無視してでも、他国の政権転覆に乗り出す国だ。そんな国を相手に、核を放棄するなどと表明できないことも当然である。また、ロケットを使って人工衛星を打ち上げる事の、何処が悪いのか」氏の論理はいつも明快である。(時事研)

 

<本文>


Ⅰ.はじめに、核と原子力の基礎知識

 

ウランには「燃えるウラン」と「燃えないウラン」がある。この場合の「燃える」とは「核分裂することを意味し、質量数235 番のウランが燃え、質量数238 番のウランは燃えない。そして、天然に存在するウランのうち「燃えるウラン」はわずか0.7%しかない。ただ、「燃えないウラン」は中性子を吸収しても核分裂しないかわりに、プルトニウムに姿を変える。プルトニウムにも「燃えるプルトニウム」と「燃えないプルトニウム」があり、質量数239 番と241 番が燃え、その他は燃えない。

  

核分裂

            (核分裂)
ウラン
235+中性子  核分裂生成物+2.5 個の中性子
                
          (中性子捕獲)
ウラン
238+中性子  ウラン239  ネプツニウム239  プルトニウム239
                 (半減期24分)    (半減期2.4日)

 


米国は第 2 次世界戦争中に原爆を作るためにマンハッタン計画と呼ばれる極秘計画を進め、合計で5万人の科学者・技術者を動員し、総額20 億ドル(85 億円、1940 年の外国為替レート23.437$/100\で換算)もの費用を単に原爆開発だけに投入した。当時の日本の一般歳出が59 億円(1940 )215 億円(1945 )であったことを考えれば、いかに厖大な資力を投入したか理解できる。

米国が人類初の原爆を炸裂させたのは、1945 7 16 日であった。その日、第2次世界戦争の終焉を前に、ドイツ・ベルリン郊外のポツダムにおいて米英ソ三国が日本への降伏勧告を協議する会議いわゆる「ポツダム会談」を開こうとしていた。その朝、米国は自国アリゾナ州の砂漠アラモゴルドにおい

て人類初の原爆を炸裂させた。半信半疑で見守る科学者・軍人の眼前で、その爆弾は千の太陽よりも明るい輝きを放ち爆発した。ただちに原爆成功の報を受けたトルーマン米国大統領は、同席しているスターリンソ連首相には内緒のまま英国首相チャーチルにそれを耳打ちした。その後、8月6日に広島、8月9日には長崎に原爆が投下され、この世のものとは思えない地獄を現出させたのであった。

          

ウラン原爆

 

1945 年の時点で米国は3発の原爆を完成させていた。その1つがアラモゴルドで炸裂したトリニティー(三位一体)であり、残りの2つが広島(リトルボーイ)と長崎(ファットマン)の原爆であっ

このうちリトルボーイだけがウランを材料にして作られており、トリニティーとファットマンはプルトニウムを材料に作られていた。

すでに述べたように天然ウランの中には、燃えるウランは0.7%しか存在していないが、原爆のように一気にウランの核分裂反応を進行させようと思うと、燃えるウランの濃度を93%以上というような高濃度に高めなければならない。そうするための作業を「濃縮」と呼ぶが、その作業は厖大なエネルギーを必要とする。

リトルボーイの爆発力は最近推定値が変わって、TNT 火薬に換算して1 6000 トン分となった。高度な軍事機密のため正確な値は分からないが、そのリトルボーイは約30kg の高濃縮ウランを材料に使っていたと思われる。それを得るために「濃縮」作業で使ったエネルギーは、TNT火薬5 万トン分に相当する。原爆は圧倒的に強力な兵器であり、どんな犠牲を払ってでも手に入れる価値がある。しかし、ウランで原爆を作ることはエネルギー的にいえば実に馬鹿げたことであった。

 

プルトニウム原爆

 

そこで、プルトニウム(プルトー:冥界の王、の元素)がにわかに重要性を帯びてくる。原子炉の中で「燃えるウラン(ウラン235)」を核分裂させ、そばに「燃えないウラン(ウラン238)」を置いておけば、核分裂で生じた中性子を「燃えないウラン」が捕獲してプルトニウム239 に自然に姿を変える。

今日では、原子炉といえば発電に使う道具のように思われているが、もともと、原子炉とはこうして原爆用のプルトニウムを作り出すためにこそ開発された道具であった。そして、プルトニウムを効率よく作るためには、原子炉の中にある燃えるウランの量に比べて燃えないウランの量が多い方がいい。今日の日本の原子力発電所(軽水炉)では、燃えるウランを3%から5%程度まで濃縮して使っているが、プルトニウムを作る目的の炉では、天然ウランをそのまま使ったほうがいい。

また、原子炉の中でウラン 235 が燃え、ウラン238 がプルトニウム239 に変わるが、そのプルトニウム239 をそのまま原子炉の中に入れておくと、今度はプルトニウム239 が中性子を吸収して核分裂してしまったり、中性子を捕獲して燃えないプルトニウム(プルトニウム240)になってしまったりする。

そこで、核兵器用にプルトニウム239 を作ろうとする場合、できたプルトニウム239 を原子炉の中から速やかに取り出したい。そのためには原子炉を運転中でも燃料を出したり入れたりできる構造のものでなければならない。そうした特性を持った原子炉として開発されたものが、いわゆる「ガス冷却炉」であるし、ごく特殊な場合には「重水炉」であった。

 

Ⅱ.朝鮮民主主義人民共和国にある核=原子力施設

 

朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮と記す)には1986 1 月に稼動を始めた電気出力5MW、熱出力は25MW の研究用原子炉がある。私が所属する京都大学原子炉実験所にもKUR という原子炉があり、その出力は熱出力で5MW であるから、単純に比較すれば朝鮮の原子炉はKUR 5 倍である。また、今日標準的となった原子力発電所は電気出力が100 kW すなわち1000MW であり、熱出力3000MW である。したがって、朝鮮にある原子炉は標準的な原子力発電所の原子炉と比べれば100 分の1 以下というごく小さなものである。ただし、朝鮮の研究炉はプルトニウム製造に適したガス冷却炉である。

重水冷却炉はガス冷却炉と同様、天然ウランをそのまま燃やせるし、運転中に燃料を交換できる。日本にはガス冷却炉もあったし、重水冷却炉もあった。日本で最初に動き始めた東海1 号炉は、英国がまさに核兵器製造用に開発したマグノックス型と呼ばれるガス冷却炉である。また、今年3 月に停止した「ふげん」は、世界一のプルトニウム燃焼実績を誇る重水冷却炉であった。東海1 号炉は電気出力166MW、熱出力587MW、ふげんのそれは、それぞれ165MW557MW である。

米国は、朝鮮の研究用ガス冷却炉がプルトニウム生産目的のものだとして経済制裁を加えてきた。また、新たに朝鮮が作ろうとしていた発電用のガス冷却炉の建設を停止させ、その代わりに軽水炉を提供するとともに、それが完成するまでの間重油を供給すると約束したのが、1994 年の枠組み合意であった。

 

ところが、米国はブッシュ政権になった2001 6 6 日、「北朝鮮政策見直し」を発表、重油の供給を停止するとともに、軽水炉すら核開発につながるとして一方的に枠組み合意を破棄した。

 

朝鮮には原爆が作れない
時事研・注-この時点での見通し)

 

プルトニウムは原子炉の使用済燃料を再処理しなければ取り出せない。ところが、朝鮮にはもともと再処理施設がない。1956 年に建設された放射化学研究所には強い放射能を取り扱うための「ホットセル」と呼ばれる設備がない。また、1985 年に着工され、1996 年に完成予定であった放射化学実験(Radiochemical Laboratory)が再処理開発を目的とした実験施設であることは朝鮮自身も認めているが、1994 年の枠組み合意時に建設が凍結された。したがって、朝鮮はプルトニウムを取り出すことができないし、もちろん原爆を作ることもできない。(時事研・注―この時点での核計画は、協議次第という事であろう)

 

おまけに、朝鮮の研究用原子炉は燃料交換を運転中でなく、炉を停止させてから行う仕様になっていた。また、他のどの国の原子炉もそうであったように、運転開始当初は予想通りには動かなかったということである。そして、1994 年の枠組み合意時までずっと初装荷燃料のまま運転されてきて、その燃料はIAEA の立会いの下、つい先日まで8000 本の燃料棒すべてがIAEA の監視下にあった。ただし、この原子炉は1989 年に100 日ほど運転を休止したことがあった。その時に原子炉から破損した燃料を取り出し、建設途上の放射化学実験室でミリグラム・オーダーのプルトニウムを抽出したと朝鮮は認めている。

 

しかし、そんなことが一体なんだと言うのであろう?

超優秀な技術をもってしても、原爆を作るためには1kg のプルトニウムが必要であり、ミリグラム・オーダーのプルトニウムでは核兵器が作れないことは物理学的に当然である。

 

しかし、朝鮮は「悪の枢軸」でどんな嘘をついているか分からないという人たちがいる。そこで仮に、朝鮮が使用済燃料の全量を再処理して原爆を作ったとしよう。その場合には、最大で約20kg のプルトニウムが得られることになる。長崎型の原爆を作るためには約8kg のプルトニウムが必要といわれており20kg のプルトニウムではいくら頑張ってもせいぜい3 発の原発しかつくれない。

 

もし、(朝鮮に)あったとして、最大50 kton 4の原爆しかできない。爆発力にすれば、約50 キロトンである。その量を、米国が現実に配備している核兵器の量と比較して前頁右下の図に示した。朝鮮に仮にあったとした量が右側の点、左側の巨大な四角が米国が実際に持っている核兵器の量である。その米国が、実は核兵器など持たない朝鮮に対して、「悪の枢軸」というレッテルを貼って攻撃しようとし、日本政府もその尻馬に乗っている。

 

私は、原爆は悪いと思う。どこの国も持つべきでないと思う。朝鮮だってやらないにこしたことない。でも、厖大に核兵器を持っている国が、あるやないや分からない国に対して「悪の枢軸」というレッテルを貼り、制裁するなどという主張は決して認めてはならない。

 

日本はすでに充分な核を開発した

 

日本にしても、実際には大量のプルトニウムをすでに保有している。それを右の図に示す。日本はこれまで再処理をフランスとイギリスに委託してきた。委託して分けてもらったプルトニウムは日本に返還され、現在は「もんじゅ」など核燃料サイクル開発機構の施設を中心に約7トン保有している。まだイギリス・フランスに留め置かれている分も含めると40 トンを超えるプルトニウムを既に持っている。これで原爆を作った場合の量をラフな計算で右側の軸に示したが、すでに数十メガトンという単位の原爆を作ることが出来る。広島の原爆は16 キロトン、長崎の原爆は21 キロトンの爆発力だったといわれているが、すでに日本はメガトン(キロの千倍)という単位の原爆を作るだけのプルトニウムを持っている。

 その上、「もんじゅ」が潰れても尚且つ日本は高速増殖炉開発を続ける姿勢を変えていない。高速増殖炉はエネルギー源にならないが、「核開発」の中では大変重要な役割を持っている。プルトニウムの組成を描いた図を右に示す。軽水炉と書いたものが今日動いている原子力発電所だが、その使用済み燃料中に生まれてくるプルトニウムの場合、約7割しか「燃えるプルトニウム」が含まれておらず、高性能な原爆を作るには適さない。原爆を作るためには例えば燃えるプルトニウムが90 数%含まれていなければいけない。ところが、この軽水炉の使用済み燃料を高速増殖炉の炉心に入れて燃やすと、高速増殖炉には炉心の周りにブランケットつまり「毛布」と呼ばれる領域があり、そこに劣化ウランを置いておくと、燃えないウラン238 が中性子を捕獲して超優秀な燃えるプルトニウムが自然に生成される。この超優秀なプルトニウムの獲得こそ、高速増殖炉を開発するための最後に残る、そして最高の動機である。

                                                                                                                                

          

 

Ⅲ.朝鮮をめぐる情報の不均衡

 

核開発と原子力開発

 

Nuclear Weapon」は日本語では「核兵器」である。ところが、「Nuclear Power Plant」は日本語では「原子力発電所」となる。英語には「Nuclear」という単語しかないが、日本では「核」と訳す場合と、「原子力」と訳す場合の2つが使い分けられてきた。今、朝鮮が「核開発」をしていると報道されているが英語で書くと「Nuclear Development」。米国と日本は、朝鮮が「ウランを濃縮しようとしている、再処理をしてプルトニウムを取り出そうとしている、怪しからん国なので、経済制裁する」と言う。

 

ならば問う。日本には原子炉はないのか? ウラン濃縮はしていないのか? 再処理をしていないのか?

日本には現在52 基の原子力発電所が稼動中であるし、研究炉だって大小あわせて10 基を超える。その上、巨大な濃縮工場があるし、再処理工場も東海村で動いている。さらに今また青森県六ケ所村で巨大な再処理工場を作ろうとしている。ところが、それらすべては「核開発」ではなく「原子力開発」なのだという。

そして、「原子力開発は文明国にとって大変大切なものであって積極的に推進する。ウランは濃縮して原子力発電に使うし、再処理してプルトニウムを取り出し、原子力の燃料として利用する」と言い続けてきた。

 

では、なぜ、朝鮮は「文明国」になるために必要な「原子力開発Nucleardevelopment」をしてはならないのか?

勿論、米国には巨大な濃縮工場もあれば巨大な再処理工場もある。勿論プルトニウムもあれば、膨大な核兵器だってある。

自分の気にくわない国がやる場合には「核開発」というレッテルを貼って大変悪い国だと宣伝し、自分や自分の仲間がやるならいいことだというのである。

日本のマスコミもそうした主張を流すだけで、彼我の不均衡を問おうとしない。

  

ロケットとミサイル

 

朝鮮は1993 5 月「ノドン」と呼ばれる射程1300km のロケットを発射した。その後、1998 8月には「テポドン1 号=白頭山1 号」(射程1500km)を打ち上げ、日本海、日本列島を飛び越えて太平洋にまで飛んだ。朝鮮自身は「白頭山」は運搬用ロケットで人工衛星「光明星1 号」を軌道に乗せたと発表した。もちろん純粋技術的に言えば、それは弾道ミサイルにもなりうる。

 

しかし、ロケットを使って人工衛星を打ち上げることが悪いことなのか? 日本はすでにH2ロケットをはじめ多くのロケット開発をしてきたし、いくつもの人口衛星を打ち上げている。いうまでもなく米国は無数の軍事用人工衛星を打ち上げ、無数の大陸間弾道ミサイルも持っている。しかし、米国はほんのわずかのロケットを打ち上げた朝鮮を「ならず者国家」と呼び、それを理由にさらなる軍拡を進める。そして、日本はその腰巾着となって、朝鮮の脅威をあおる。

 

兵器で金儲けをしている国はどこか?

         

 

また、朝鮮がイエメンにミサイルを売ったら、公海上で他国の船を「臨検」し、けしからん国だと言う。では、軍事産業で金儲けしているのはどこの国なのか? それを図に示す。最高の売り上げを誇る米国企業の売上高は180 億ドル、2兆円を超える。一つの国家をも越えるような軍需企業があり、20 傑のうち11 までは米国である。圧倒的な軍需企業を抱え、軍事で金儲けをしている国、すなわち「悪の枢軸」とは米国そのものである。

  

朝鮮の歴史と日本の責任

 

日本のマスコミなどは、米国発表をそのまま流すだけであるが、そもそも朝鮮に関する歴史の流れを理解していない。朝鮮は1910 年の日韓併合以来、日本の植民地支配の犠牲となり、創氏改名、朝鮮語の禁止、天皇の崇拝などを強制された。1945 年の日本の敗戦は、多くの朝鮮人にとっては大日本帝国からの解放と受け止められた。

 

しかし、日本と米国との戦争は、悪逆非道の日本と正義の米国との戦争であったわけでは決してない。それは世界の覇権を狙う両帝国同士の戦争であり、圧倒的な力の差の下に米国が日本を完膚なきまでに打ち破った戦争であった。しかし、米国は当時の共産主義との確執を前に、日本や朝鮮を東洋における共産主義の防波堤にしようとした。そのため、日本では天皇はその戦争責任を問われないまま温存されたし、朝鮮でも日本統治下の役人がそのまま政権に居座ることが許された。

 

そのため、本来であれば日本の植民地から解放され、晴れて独立を果たすはずであった朝鮮は、血を血で洗う内戦へと導かれて、南北に分断されたのであった。1948 年に大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国が相次いで独立を宣言し、1950 6 月にはついに朝鮮戦争に突入。38 度線で膠着した戦争は、1953 に停戦協定に至った。その後、すでに半世紀の時間が流れたが、朝鮮と米国の間では依然として停戦協定があるだけで、戦争状態が続いているのである。

 

その一方の当事者である米国は核兵器、生物兵器、化学兵器、大陸間弾道ミサイル、中距離ミサイル、巡航ミサイル、ありとあらゆる兵器を保有し、自らの気に入らなければ、国連を無視してでも、他国の政権転覆に乗り出す国である。

 

そうした国を相手に戦争状態にある国が朝鮮であり、武力を放棄できないことなど当然であるし、核を放棄するなどと表明できないことも当然である。

 

ちなみに、日本はベトナム特需とともに、朝鮮特需をもって、戦後の経済を立て直したのである。そして今なお、米国につくのが国益だと、戦争を放棄したはずの憲法も無視して、弱いものいじめに荷担する。

 

Ⅳ.差別と抑圧の世界への抵抗

 

9・11とアフガニスタン

 

911 の攻撃を受け、米国は「テロ」を根絶するとしてアフガニスタンへの攻撃を始めた。いったいアフガニスタンが何をしたというのであろうか?

 

米国から9 11 日の攻撃の首謀者とされたオサマ・ビンラディン氏はアフガニスタンにとっては長年の客人であり、引き渡せと言うなら証拠を示せと、ごく当然の要求をしたに過ぎない。証拠を示すことなく、容疑者の引き渡しを求めるなどどんな国際法、国内法に則っても違法であろう。

 

そして、交渉の用意があるとまで言っていたアフガニスタンに、「問答無用、言うことを聞かなければ攻撃する」と言って、米国は攻撃を始めた。いったい悪いのはどちらなのか?

 

アフガニスタンは貧しい国である。多様な民族を抱え、ソ連、中国、インド、パキスタンそしてアラブの国々に囲まれ、他国の思惑に翻弄され続けてきた。1980 年以降は、ソ連の支配を嫌って内戦も起こり、中央アジアでの天然ガスと石油の利権をねらった米国はソ連と闘うタリバーンに肩入れした。

 

アフガニスタンは、世界全体の阿片の4 分の3 を生産し、米国のCIAがそれを武器と引き替えて、戦闘を拡大させた。国土は荒廃し、食料すら乏しく、2100 万ほどの人口のうち、多い時は600 万人もが難民であった。利用できるような統計的データすらないが、軍事費などは米国の1000 分の1にも満たない。その国を、米国だけではなく、米国に「同盟国」として認めて貰いたいという国々が、よってたかって攻撃し、一方的な殺戮を繰り返してきた。

 

米国にとって、中央アジアのエネルギー資源はかねてから触手の対象であった。その米国は世界貿易センタービルを破壊されて、10 兆円に達する被害を受けた。しかし、中央アジア地域とアフガニスタンを支配下に置くことで、ついに中央アジアのエネルギー資源を手に入れる道筋を築いた。その上、この地域に対するロシアの影響力を抑えたことで、蒙った被害をはるかに超える利益をすでに得たことになる。

  

イラクへの一方的武力行使と米国の意図

 

米国はイラクが大量破壊兵器を持っていると主張してイラクの政権を転覆させた。国連を使って軍事施設も大統領官邸も隈なく調べさせ、それでも「大量破壊兵器」は見つからない。見つかれば戦争。見つからなければ隠しているから悪い、だから戦争だと。どっちにいっても戦争というむちゃくちゃな横暴さである。その本当の理由もまたエネルギー資源である。

 

イラクはサウジアラビアに次ぐ世界第2の石油の埋蔵量を誇る国で、イラクを自分たちの言うことを聞く政権にしたいということが今回の戦争、いや一方的な殺戮の唯一の目的である。そのことは、米国のルーガー上院議員がハッキリ言葉にして言っている。

「もし、フランスやロシアがフセイン政権崩壊後の石油の分け前を欲しいなら軍事行動に参加すべきだ。」

 

「悪の枢軸」とは誰なのか。大量破壊兵器とは核兵器・生物兵器・化学兵器であり、そのすべてにおいて米国が圧倒的多数を保有している。そして、国際的にそれらの兵器の禁止条約を締結しようとする動きがある時に、それらすべてを闇に葬り去ってきたのも他ならぬ米国である。

 

その上、非核保有国への核攻撃をしないという消極的安全保障すら拒否し、さらなる核軍拡を進めながら、米国の正義が世界の正義であるとして世界中に支配の手を広げた。一方、ソ連が崩壊して冷戦構造が終焉するや、今度は「ならず者国家」から米国を防衛するとの理由で、ミサイル防衛(MD)をはじめとする軍拡を進めている。

 

要するに、米国は自分だけが世界の覇者であり続けたいと言っているのである。そのことは、大統領自身がドクトリン・教書でハッキリと明言している。

 

「米国はかってないほどの力と世界への影響力を持っており、この力は自由を希求する国々の力の均衡を推進するために使われなければならない。脅威が米国の国境に達する前に探知し、破壊することで、米国民とわれわれの国内外での利益を防衛する。米国は国際社会の支持を得るために努力を継続するが、必要とあれば、単独行動をためらわず、先制する形で自衛権を行使する。米国は、自分たちの意思をわが国とその同盟国に押し付けようとする敵のどんな試みも破る能力を維持する。米国と同等かそれ以上の軍事力を築こうとする潜在的な敵に思いとどまらせるに充分な、強力な軍事力を持つ。」

 

核戦争防止国際医師会議は長年、核兵器に反対し、1985 年にノーベル平和賞を受賞した。その創始者であるバーナード・ラウンはいみじくも言う。

 「核保有国が一貫して言ってきたことは『我々がしている通りではなく、我々が言う通りにせよ。我々は核兵器を持って良いが、君たちはいけない。』」

今世界で起っていること、米国がイラクに対して行ったこと、朝鮮に対して言っていることはまさにこのことである。

  

星条旗が示す米国の成り立ち

 

米国は「United States of America」というのが正式な国名である。これを日本語に訳すと、日本では「アメリカ合衆国」と訳される。民衆が集まってアメリカという国を作っていると言うのである。米国の国旗は星条旗であり、その横線は赤白で13 本ある。この13 本は、東部13 州が米国の独立宣言をした時の植民地=州の数を示す。その後、米国は西部に向かって開拓という名前で先住民を虐殺しながら土地を奪って行き、とうとう太平洋まで達した。そしてアラスカを獲ってハワイを獲って、現在51州だということで星条旗の星の数は51 個になっている。

 

つまりこの星条旗というのは米国という国の成り立ち、州の数を端的に示している。もちろん、正式な国名自身が示すように「State=州」が集まってできた国が米国であり、日本語にするならば、「アメリカ合州国」にしなければいけない。

 

ところが日本では「アメリカ合衆国」という訳しか使ってはいけなくされている。完全な誤訳だと分かっていながら、「合衆国」という訳しか使わせない社会こそ歪んでいる。

 

朝鮮に対してだけでなく、情報もまた偏って、歪んでいる。ワールドトレードセンターで、たかが3千人が死んだからと言ってアフガニスタンで、そしてイラクで何万人もの人間を虫けらのごとく殺していく。そのことは報道もされない。

それ以前に、イラクで経済制裁という名の下にこれまでに何万人の人たちが死なねばならなかったのか、そのことの方が大事なことだと私は思うが、報道もされない。言葉に尽くせないほど不均衡な世界である。徹底的な差別の世界になんとか抵抗するということが、今私たちが、なさねばならない一番大切なことだと私は思う。(終わり)

 

 

 

<関連参考記事>

 

●柴野貞夫時事問題研究会<書評>小出裕章著「原発と憲法9条」(遊絲社)
http://www.shibano-jijiken.com/nihon_o_miru_jijitokushu_71.html 

小出裕章氏の「原発と憲法9条」は、原発反対運動を闘う全ての国民にとって必読の書である。この著作の購入を呼びかけます。
<発行所 遊絲社>奈良県大和郡山市小泉町3658 電話/ファックス (0743529515

 

<佐賀県・九電玄海原発3号基をめぐる「公開討論会」の議事録・ 国家と電力会社の御用学者達の詭弁を断罪した」201148) 佐賀県・九州電力プルサーマル公開討論会」で、 小出裕章助教が、御用学者の東大大学院教授 大橋弘忠と論戦し、のちの福島災害を予測する。長い議事録全文掲載)http://www.shibano-jijiken.com/NIHON%20O%20MIRU%20JIJITOKUSHU%2058.html

 

柴野貞夫時事問題研究会の論考―2件が必読

朝鮮半島の戦争危機を煽る張本人は誰か 

朝米合意を踏みにじり、朝鮮民主主義人民共和国への核戦争を仕掛けようとした米国の策略を暴いた必読の論考

論評[国連安保理の役割と、朝鮮民主主義人民共和国に対する制裁]